忘れられた大木の大蛇伝説！｜リアクション

忘れられた大木の大蛇伝説！

『いずみせんせいはなんて？』
　小山内海はスケッチブックにそう書いて御剣刀に見せた。
「化粧杉が折れた時、乞龍洞から大蛇が現れる。その時、白い服を着てはいけない」
　刀の返答にうなずきながら、海はさらさらとスケッチブックに筆を走らせる。
『それはしってる』
「俺もだ。だから、もっと詳しく知らないか、って聞いてみた。そしたら泉先生は、聞いたこともない、不思議だ。だって。聞いたことないってことそのものが不思議だ、って顔だった」
　刀は書架から次々と本を引っ張りだして抱え込んでいく。
　二人は寝子島図書館にいる。泉竜次に刀が大蛇について質問し、満足のいく答えをもらえなかった結果、もしかしたら図書館なら何かあるかもしれない、と思いつき、海を誘ってここへ来たのだった。
　寝子島の歴史。昔話、民話、神話。手当たり次第集めた本を拾い読みして行くが、それらしい伝承は見当たらない。
「化粧杉、乞龍洞、大蛇……白い服……」
　その隣で海もまた、懸命に本をめくっている。
　刀はまず、寝子島の民話や昔話の本にあたり、索引から化粧杉について調べてみたが、「樹齢千年といわれる寝子杉の大木。名前の由来は不明」とあるのみ。
「千年前、寝子島で何があったか……」
　次は乞龍洞について見てみる。すると、記述は同じように曖昧で、「寝子山の中腹にある鍾乳洞。名前の由来は不明」。
　その時、隣の海が刀の肩を指でつついた。
『せんねんまえ』
　彼女のスケッチブックに記されたその文字列に、刀は思考を刺激される。
「そうか、樹齢千年……」
　樹齢千年ということは、植えられたのは少なくとも千年前。もし化粧杉が大蛇を封じるために植えられたのなら、大蛇が現れたのは千年前ということになる。
　今度は歴史の本にあたってみる。だが、その時代となると、記録に残されているのは歴史の教科書にも乗っているような事件ばかり。聞いたことのある戦や政変の中に、当然大蛇の姿など影も形もない。
「うーん、見当もつかないな……」
　その時、海がスケッチブックにペンを走らせる音が聞こえる。振り向いてみると、
『わるいじだい』
　彼女はスケッチブックにそう記していた。同時に、手元に開いた本を指さしている。
「どれどれ……疫病の流行、飢饉、戦、そういう時代か……」
　確かに悪い時代のようだった。ならば人に災いをなす大蛇が現れても不思議ではない、かもしれない。
「けど、そんなのが出たのならちゃんと記録を残していそうなものだけど。たくさんの災いに埋もれた？　うーん……」
　その後も進展はなく。二人は資料の山の中で溺れかけている。
　刀はうーん、と伸びをした。隣の海に声をかける。
「よし、ちょっと外に出よう。神社か寺にでも行こう」
『かみさまほとけさま？』
「資料を見せてもらえないか頼むんだよ。でも、ちょっとそんな気分になってきたね」
　二人は図書館を出る。そこで、刻人と鋭二にすれ違う。