闇ありて棲み処は澱む＜１＞｜リアクション

闇ありて棲み処は澱む＜１＞

●４Ｆ廊下

●

　そのころ。
　４階へ向かった青木学と鏨紫は、廊下に蠢く黒い紐のようなものの群れと対峙していた。
「あ、あれはただの蛇ただの蛇！」
　学はそう唱えるが、蛇のようなそやつらの額には、粗く削った黒曜石のような禍々しい角が生えている。
　それがびっしりと床を覆ってうねっているのである。
「なるほど、これは悍ましい……」
　紫ですら眉を顰めるほどだ。
　学は片手にビデオカメラを構えたまま、もう片方の手に握った竹ぼうきを振り回して角ある蛇を叩く。
　それでも近づかれたら踏みつぶす。
　いずれもぐしゃっと潰れる手応えを感じる。
「ひ、ひええ～～気色悪っ。でも、物理効く！」
　そうしながら発生源を探すが、わからない。出口などがあるようなら周囲の物や服を被せて塞げるかと思ったのだが。ただ、４０４号室の前が一番溜まっている。これから行こうとする場所だけに、いやなかんじだ。
「下がってな人間。形ある限りは僕の出番。露払いだ」
　言うや否や、紫は漆黒の群れめがけて走り込んだ。
「大聳えの黒檀！」
　低く床に擦り付けて身を滑らせながら、紫の身体がみるみる大きくなってゆく。
　身体を二倍に大きくできる紫の能力だ。
　下敷きになったやつらは根こそぎひき潰される。
　運よく紫の進路上にいなかったものも風圧で千切れた枯れ草みたいに宙を舞う。
「ハハッ、」
　紫は愉しいと言わんばかりに浅く笑った。
　勢いが死んで纏わりつかれる前に飛び上がる。
　空中で、身体のサイズを元に戻してひらり回転すると、着地でさらに蛇を踏みつける。
　一連の動きが終わったときには、黒いうねりのなかに海を割ったモーゼの所業のごとき白き道が出来ていた。
「行きな！」
　割れた道を元通りに埋めようとうねるきゃつらを、膂力を乗せた体術の一挙一動で叩き伏せながら、紫は階段の途中で身を潜めていた化神小次郎と八神修に向かって叫んだ。
「お、おう！」
　小次郎が怖さを勢いに変えて飛び出す。
　４０４号室のドアノブに飛びつきガチャガチャさせる。
「ちっ、鍵かかってやがる！」
「化神！」
　振り返ると修が投げた鍵が飛んできた。
　キャッチして鍵穴に差す。回す。
「開いたぜ！　入るぞ！」

このページにイラストを設定する