寝子島の風にのって、ふわふわわ～｜リアクション

寝子島の風にのって、ふわふわわ～

　神魂の力か否かは不明だが、空一杯に風船が浮かんでいる。
　黄色いクジラが呼んできたのかもしれないし、「寝子島の空を、楽しく飛ぼう」と誘っているようにも見える。

「わわっ！　帽子が……！」
　薄野九月は自分のキャスケットが飛びそうになり慌てて手を伸ばす。が、落ちるわけでもなく自分と同じようにふわふわ浮いている事に気付いた。

「もしかして中に風船がはいっていたりして？」
　雨崎楓香がくすりと笑って中を見てみるよう提案。九月は試しにキャスケットをひっくり返したが何もなかった。
「じゃあなんでふわふわ浮いたんだろうね」
「風自体に力が働いているのかな？」
　どんな理由で浮いているのだろう、と２人は興味津々な様子で周りを見渡す。だが、原因と思わしきものはない。しいて言うならば、黄色いクジラの尾びれが動くたびに風船が増えている気がするぐらいだろうか？
「これのお陰かなぁ」「かもしれないね」
　二人は不思議そうに黄色いクジラを見つめた。

　二人から少し離れた所では滝原三兄弟が楽しそうに浮かんでいた。

「うふふ！　猫の形をした風船みつけちゃった！」
　滝原レオナがどこか嬉しそうに声を上げ、捕まえた猫型風船を見せようと双子の片割れである滝原レオンの方へと振り返る。と、ちょうど弟の滝原カノンと共に逆さまになってわちゃわちゃしていた。

「こらっ、落ち着けって……」

「兄ちゃんと姉ちゃんと空のさんぽって楽しくて！」
　燥（はしゃ）いだカノンは、兄と姉とこうして遊べるのがとても楽しいらしい。レオンは苦笑するも
「頭に血が上るから！」
　とどうにか戻ろうと奮戦する。レオナは「仕方ないわね」と呟きながら２人に手を貸し、小さく微笑んだ。猫の形をした風船は運よく静電気でレオナにくっつき、離れていない。
「確かにかわいいな」
「ホント可愛いね！」
　小さな声で呟くレオンの横、カノンは目をキラキラさせて猫型風船を見る。レオナはちょっと自慢気に「私が見つけたのよ」と微笑む。何故か微妙にぎこちないレオナとカノンだが、前よりも自然に笑いあっているような気がして、レオンは嬉しそうに瞳を細めた。
「これ、持って帰られるかしら……」
　レオナは、ぽつりと呟いた。空から地上へ戻った際猫型の風船がどうなったかは想像にお任せしよう。
「それにしても、なんでクジラが尾びれを動かすと風船が増えるのかな？」
「そういう神魂……なのか？」
　カノンとレオンがマジマジと風船を見つめていると、レオナはふと気づいてしまった。
（風船が増える度に、ふわふわ感も増しているかも？！）

「ねぇ！　もっとあっちの方まで行ってみようよ！」
「大丈夫かな……。確かにどこまでいくのか気になるけど……」
　野々ののこに誘われ、佐藤英二はドキドキしながら相槌を打つ。まぁ、確かにふわふわとどこまで行くか気になるし、想いを寄せるののこに誘われて嬉しかったのもあるのだが。
「あのクジラさんとどこまで行けるか行ってみたいな。ね？」
　ののこはにっこり笑って「行こうよ！」と英二へと手を伸ばす。英二は少し頬を赤くしながらも、そっと彼女の手を取る。
　黄色いクジラは尾びれを打ち付け、悠々と空を泳ぐ。その雄大さに胸をうたれ、ののことつないだ手の暖かさに胸がちょっと跳ねる。
（この先で、何が待っているんだろう……？）
　英二は、眩しそうにちょっとだけ目を細めながら小さく微笑んだ。

　不思議な空の旅は、まだまだ続きそうだ……。