窃盗事件発生！～奪われた七色の蝶ネクタイ～｜リアクション

窃盗事件発生！～奪われた七色の蝶ネクタイ～

　　【学園イベント争奪戦への昇華】

　高級革靴の音が廊下に響き渡る。
　その足音が止まった先は放送室。
　ねこったーを確認して得た最新情報を頭に叩き込みつつ。携帯の手を止め、ノックをすれば、放課後の放送の打ち合わせをしていた放送委員の生徒が顔を出してきた。
　「重大事件だ。それを軽減する為に放送室を借りたいのだが」
　「ちょっ、放送室は立ち入り禁止だ！」
　生徒が慌てて飛び出してくる。
　しかし、放送室を訪れた八神修はあくまで冷静だ。

　「今日の全校集会における、校長先生の蝶ネクタイの件だ。
　犯人がまだ、この学園内にいる。
　本来ならば窃盗罪だが、校長先生は優しいからな。許すとなった時に周囲だけが血気盛んで警察へとなったら、校長先生の優しさが無為になってしまう。
　……そうは、思わないか？」

　この時、放送委員は思った。
　『あれ、何か相手は落ち着いた声音だけれど、俺今重大な選択迫られてるんじゃないの？　これで拒絶して警察沙汰になっちゃったらもしかして俺のせいになったりとか……？』
　挙動不審になりながら見た、目の前の修はあくまで平然としている。
　放送室から、何人かいた放送委員が出てきた。何が起こったのかという眼差しが最初に出てきた放送委員Ａを追い詰めるが、そんな修は気にせず他の放送委員にも同じ説明をする。
　「イベント調に実況中継出来れば、生徒への恐怖感も減り、協力者も増えるはずなんだ。頼む」
　修が、口調こそ変わらないが言葉の重みを意図して深めて語り掛ける。

　「……。仕方ないな。ただ、基本放送室に部外者は入れない。携帯でやり取りしてその情報を違えない様に、順次放送していく。先生には君が説得してくれ。それでいいな」
　「もう既に先生に許可は取ってある。それじゃあ、さっそくこの情報を頼む。出来る限りハイテンションで」
　可能な物事は、可能な限りスマートに。無駄手間は可能な限り省く。
　殊、優等生の修にとっては、頭の固い放送室の担任教師を説得するのもそんなに難しいことではない。
　
　【さあ、始まりました！　校長先生の蝶ネクタイをめぐる争奪戦！！
　現在、校長先生の蝶ネクタイを持った２人組、通称【信者】と【変態】が校内を逃走中！　犯人は『人を驚かす手品』を使うかも知れないから気をつけろ！
　それを無事校長先生の元へ届けた人は、校長先生から直々に感謝の言葉をもらえるぞ！
　蝶ネクタイは虹色７色！　届ければ、猫好きにはたまらない校長室の３匹の猫たちも触らせてもらえる！
　さらにぃ、さらにぃっ！！　１-５組の八神修君から松坂牛をプレゼントだぁっ！！】　

　自分と、神野美野梨から得た情報を交えて放送を流してもらう。
　校内全てに響いた校内放送から数秒の間を置いて、ねこったーへの書き込みが一気に増えた。
　『今、変な人遭遇なう！　あの蝶ネクタイって校長先生の……』
　『北校舎で見た！　何だよ、あの蝶ネクタイ！』
　『肉食いてーっ！　よし、探そう！』
　『松坂牛松坂牛松坂牛松坂牛松坂牛松坂牛松坂牛松坂牛松坂牛松坂牛松坂牛松坂牛松(140文字びっしり埋め尽くされている為割愛)』

　「さて……ここから、どれだけ重要な情報が拾えるか、だな……」
　松坂牛のプレゼントが余程魅力的だったのか、今回の校長蝶ネクタイに関しては、確かに犯罪色が一気に消え失せ、真っ先に効果の出たねこったー上では、期待通りにイベントとしての活気を見せ始めた。
　合わせて、ねこったーの情報も一気に増えたのだが──困った事に、肝心の情報の重要性が一気に希釈されてしまったのである。
　こうなれば、事件解決は的確な情報をこちらで判断して、随時携帯経由で放送してもらうしかない。
　修はため息と共に覚悟を決めて、携帯を片手に、もう片方の手には双眼鏡を構えてレンズの中を覗き見た。

　【無事に犯人確保をする事は出来るのか！？　さぁ、犯人よ！　自首するならば今のうちだぁーーーッ！！】