窃盗事件発生！～奪われた七色の蝶ネクタイ～｜リアクション

窃盗事件発生！～奪われた七色の蝶ネクタイ～

　　【舞台少女と未知との遭遇】　
　
　『校長先生にはいつも笑顔でいてほしいの！』
　少し浮ついた足取りで、少女結城日和は携帯を片手に廊下を歩く。
　それがはじめの少女の願いであった。

　『ねぇ、おじいちゃん。この花のお名前はなんていうの？』
　『ねぇ、おじいちゃん。この鳥のお名前はなんていうの？』
　『それはね……』

　舞台芸術に傾倒し過ぎた彼女の頭の中は、校長先生とお孫さんとのそんなきゃっきゃうふふ光景が舞台上で公演されていたりもしたが。
　その光景は突然の前触れも無い雷と共に打ち砕かれ、今は一人校長先生が舞台上で涙するシーンが浮かんでいる。
　『ああ、なんと悲劇的な事だろう！　こんな悲しい運命が許されても良いのだろうか！！』
　そして、高らかに謳うように、感極まった様子でその感情を声にする。
　日和は常にこんな妄想をしている訳ではない。ただ、しかしその喋り方だけは彼女が普段からリスペクトしていたアーティストの影響で大変なことになっていた。

　「あ。そうだ、ねこったーチェーック！」
　しかし、油断した時に出るこんな可愛らしいぼろが彼女の素でもあったが。

　ねこったーは今や学園の生徒の書き込みで大変な事になっていた。
　今は放課後、生徒は少ないはずだが帰宅途中で松坂牛欲しさに取って返すという書き込みまであった程だ。
　「う～ん。これじゃあ、犯人の居場所が特定できないなぁ」
　犯人は二人、虹色のネクタイを所持…最低限の情報は誰かが放送室をジャックしているのか、定期的に流れてくる。
　「よしっ！　こうなったら怪しい人に手当たり次第突撃だ～っ！！」
　ガッツポーズでこぶしを天に掲げながら、テンションを跳ね上げる日和。
　そのまま曲がり角を曲がろうとして、がつんと誰かとぶつかった。
　ぶつかったのは自分と対して変わらない体格の男子学生のようだ。

　「痛ったぁ……じゃなかった！
　『ああ、大丈夫かね。そこの君。
　気をつけたまえよ。校長先生の蝶ネクタイを奪った犯人がこの辺りを徘徊しているらしいからねぇ』……って、あれ？」
　日和が大仰に手を振りかざしお辞儀をするように相手に向かって差し伸べて。
　「ああ、ありがとう。助かった」
　その手を取って立ち上がった、その生徒の首元には、４つの蝶ネクタイが……。
　「ああーーーっ！　校長先生の蝶ネクタイーっ！！　返せ～っ」
　……ちなみに日和には攻撃手段が無い。
　もれいびではあるが、トリガーとなる為のバイオリンも持ち合わせてはいなかったし、それは攻撃向きとは言い難かった。

　そこで、取った手段は……駄々っ子パンチ。

　「うりゃ～～～っ！」
　ポカポカポカポカ……！
　「いていていていて！！　地味に痛い！　地味に痛い！
　貴様っ、何奴──って、はっ！　今俺は追われている身だった！！」
　今更気付いたのか、と突っ込む人物は現状不在。
　ボケ担当しかいない現状に、これからもツッコミが現れるかは分からない──