窃盗事件発生！～奪われた七色の蝶ネクタイ～｜リアクション

窃盗事件発生！～奪われた七色の蝶ネクタイ～

　「……あの場所から、挟み撃ちってことはあそこの非常階段かねぇ。やれやれ、簡単に把握されるとはやっかいなもんに見つかったもんさぁ」

　飄々と骨削瓢が口を開く。今、彼は絶体絶命に近しかった。
　猫鳴館まで繋がる外まであと一歩のところでの、知らぬ間に仕掛けられていたワイヤートラップを避けている内に、気がつけば居たのはその場所から縁遠い３階廊下。そして、まさかの挟み撃ち。
　これは完全に目的地を見抜かれていたとしか思えない。
　今まで常闇月に追い立てられはしたものの、余裕と思っていた彼に今僅かだが明らかな焦りが感じられる。
　しかし、それでも尚、飄々とした態度は崩さない。
　
　月はワイヤーを張り巡らせて待ち構えている。しかし、鈴野加代の方はゆっくりと歩いて近づいてくるものの、一見何の手札もなさそうだ。
　しかし……何も無さそうに見える手札程恐ろしいものは無いと、瓢は良く知っている。

　加代は躊躇いもなく、手を向け瓢に向け岩塩弾を放った。
　岩塩弾とは、発射時の衝撃に堪えかね砕けてしまう、非致死性兵器(ノーリーサルウェポン)とも呼ばれる暴徒制圧用武器に用いられる弾丸の一種だ。
　砕けた弾丸は粒が細かい散弾となって広範囲をカバーし相手を襲う。
　率直に言えば、死なないけれども、当たれば痛い。とにかく痛い。

　瓢は先程から何度となくその散弾を避けようとしたが──これが通常の弾丸であったなら、勝機は彼にあったかも知れない。しかし、彼の軽業は細やかな一点が勝負。それを面積で襲ってくる弾に成すすべもなくバランスを崩された。
　追い立てられているのが分かっているのに、避けられないこの悔しさといったら。
　そして、気が付けば背後にはワイヤー、正面には岩塩弾。そして、横には窓が。

　瓢は躊躇いなく、３階まで追い詰められた窓を開け放つ。
　「バカな。ここから飛び降りる気ですか！」
　予想外の事に加代が思わず声を上げる。
　「下には茂みがありますが、骨折は免れません」
　月が冷静に人体の損傷について告げる。
　「ケケケッ、捕まる位なら飛び降りること位なんてことぁないさぁ！」
　手すりに既に両足を掛けた瓢が赤いリボンを光らせた。
　その口から炎が吐かれる！
　「くっ、…熱伝導なし！　幻ですっ！！」
　窓から飛び降りる振りをして攻撃点を集中させ、目くらましで即座に窓から廊下に戻ろうとする瓢。
　そこに、放送を聴いた後木真央が飛び込んできた！

　「大変なのだ！　『にゃにゃにゃがおー！』」
　咄嗟に真央が手を丸めて叫ぶ。
　真央のろっこん発動！

　【発動条件】
　にゃにゃにゃがおー！と叫び両手を丸める
　【能力】
　三毛猫１体召喚。召喚した三毛猫にお願いして戦闘その他１つだけ代わりにやってもらう

　「がおー！　犯人瓢ちゃんを押さえ込むのだ！」
　がおーと呼ばれた猫は、確かに瓢を押さえ込んだ。
　……窓の、外側へ。
　月が即座に窓下へと捕らえる為のワイヤーを伸ばす。
　「くえええぇっ！」
　手応えは確かにあった。
　下からは墜落音の代わりに奇声が伝わってくる。
　加代が慌てて下を覗き見ると、……瓢の首が、絞まっていた。
　「私のワイヤーならば猫鳴館までの距離はあります。降ろしますか？」
　「降ろしましょう。この年で殺人幇助は困ります」
　お互いが冷静な判断の元、急ぎ瓢を降ろし、気絶し尚蝶ネクタイを守ろうと手を動かす彼からワイヤーで赤と黄色の蝶ネクタイを奪い取った。縛り上げ、校長室まで連れて行く。

　祝うべき、二人と真央の補助による完全勝利である。校長室でも、放送を聞いて校長先生が帰ってくるまでの間、待っていた面子から拍手が上がった。
　好奇心に負けた真央がいそいそと自分から頭に蝶ネクタイを付ける。
　「結構かわいいのだちょっと頭に巻いてみるのだ…おぉぴったし♪なのだ」
　満悦に満ち溢れる真央。しかし、彼女はそれを喪失した時の恐ろしさをまだ知らない……

　
　【【信者】側！　蝶ネクタイを全て取り戻した模様！！
　後は、【変態】側だけだぁっ！！】