【プール開き】六月快晴初およぎ日和｜リアクション

【プール開き】六月快晴初およぎ日和

●ここはどこ、あやかしプール！？（７）

　あやかしプールでもお立ち台ルールがあるとは驚きだ。
　だが、自分が怪しいプールに迷い込んでいることに気付いていない者がほとんどなのだ。
　まゆ先生もその一人なのだろう。
　寝子高あるあるな強引さで、まゆらを呼ぶと、ポージングを要求した。
（こんなところでじっとしてても埒が明かないし……ええーい、ままよ！）

「ハァーイ、みんな、楽しんでる？」

　近ごろの声優はステージやライブなどの仕事も少なからずある。
　ステージ根性のようなものは訓練するので、まゆらは仕事のつもりで明るくポーズを取る。
　しかし、生まれつきの性格はどちらかというと内向的。
　恥ずかしくてしかたないのでさっさとバタフライで泳ぎだす。そこそこのレコードタイムで泳いでいたまゆらであったが、ゴールの直前、急に後ろから何者かに抱き着かれた。
「な、なに！？」
　ふふ、と含み笑いをしているのは楡宮遠海であった。
　――いや、本当に彼女であろうか。その頭には、河童の皿が乗ってはいまいか。
　遠海は見た目に反して強い力でまゆらを捉え、水着の後ろのホックを外そうとしている。
「だ、ダメ！」
「そう？　本当は開放されたいんじゃない？　空の下で脱ぐのって、とっても気持ちいいわよ……？」
　清純そうな見た目なのに、百戦錬磨の夜の女みたいな爛れた囁き声を注ぎ込んでくる。
（絶対に変）
　まゆらの頭に電球が灯った。
「あなた、誰かに操られてるの？」
「そうよ。私、エロナ。あなたのこと気に入っちゃった」
　遠海に取り付いた河童のエロナは、まゆらの水着を外してしまった。
「イィィヤアアァァーーーーー！！」
　なんということだろう。
　エロナはセクシーにまゆらを禁断の世界へと誘う。
　最後まで泳ぎ切れてさえいれば元の寝子高プールに戻れていたというのに。
　黒歴史、再び。である。...Ahh！。

◇

　そんな二人を救ったのは、風紀委員の愛猫萌々子と笛吹ぴりりである。
　プールとは風紀が乱れがちな場所。なにせ水着などという破廉恥な恰好をするのだから何か起こるかもしれない、そうならぬよう気を引き締めてパトロールせねば――というのが風紀委員的思考である。
　そんなわけで、萌々子はぴりりといっしょにプールに入って怪しい人がいないか監視していた。

「ピピーーーッ！」「むむむ、風紀が乱れまくりですっ！」

　いったいこのプールはどうなってしまったのか。
　水着は脱げ放題、あちらこちらで嬌声があがり放題とは、予想以上にひどい有様だ。
「これがあやかしプール……油断なりませんねっ」
　スッパーン！　パーン！
　手近なところで乱れていた遠海とまゆらをビート板で打つと、遠海の中からエロナが出ていった。
　遠海の身体から力が抜ける。
「しっかりして」
　まゆらが遠海を支えて泳ぎ切ると、ふたりの姿はすうっとあやかしプールから消えていった。
「どうやら泳ぎ切れば元のプールに戻れるみたいですね」
　まゆらはトップレスだったが、あのまま向こうに戻って大丈夫だったろうか……。
　とはいえこのプールの脱出方法は理解できた。
「早速、風紀を取り締りましょう」
　そんな矢先のことだった、後ろから伸びてきた手が萌々子の身体を羽交い絞めにしたのは。
「この不届き者っ！」
　と、顔を見れば――。
「笛吹さん！？　なんで……まさか、あやかしのせいですか」
　目がいつものぴりりではない。輝くような力強さは鳴りを潜め、よどんだ笑みが浮かんでいる。
「あやかしに乗っ取られたみたいですね」
　先ほど遠海から抜け出たエロナが、今度はぴりりに取り付いたのだ。
　ぴりりは自分より小柄なのに、力が強いせいで全然振りほどけない！
　しかもぴりりの手は胸の方に伸ばされてきて……。
「いやっ、そこに手を入れたら水着が脱げちゃいます！」
　寮で同室なので着替えもお風呂もお互い見てはいるけれど、公衆の面前でというのは話が別だ。
「見つかったら風紀委員の沽券に関わる大問題ですよ！」
　ぴりりの風紀委員魂よ応えて、と訴えてみるも、ぴりりの手は止まらない。
「も、揉むのもダメですって、きゃーっ！　誰か助けて！　でもこっちは見ないでー！」
　萌々子、貞操のピンチである！