連なる鳥居の、その先は｜リアクション

連なる鳥居の、その先は

　朝陽に照らされた寝子ヶ浜海岸の砂浜をゼロ・シーアールシーが弾むように歩く。ふわふわした白いドレスに緩くウェーブした長い銀髪を纏わせて、鳥居なのですー、とのんびりした口調で言った。
　赤い鳥居が砂浜の上に立っている。ゼロは気ままに近付き、軽やかな足取りで潜った。

　ゼロの足が止まった。目の前に鳥居に囲まれた道が幾つもある。
「探索なのです」
　適当に選んだ一本の道をゆく。九十九折りの階段を軽々と上がっていった。
　終わりが見えてきた。ゼロは同じ歩調を通した。
　広々とした場所に出た。猫の溜まり場なのか。白猫や三毛猫、猫又等も含まれていた。
　ゼロの斜め前では黒猫と虎猫が向き合う。
「最近、霊界に迷い込む人間が多いにゃ」
「そうですかにゃ？　いつの時代もいたように思うにゃ」
「猫が喋っているのです」
　ゼロは他の猫に目を向ける。先程の二匹と同様に会話を楽しんでいた。全ての猫があやかしなのかもしれない。
「ゼロも話に加わるのですー」
　弾むように歩くと猫達の目を集めた。
「白い人間にゃ」
「ふわふわを見るとそわそわするにゃ」
「柔らかそうにゃ」
「突撃にゃ！」
　一匹の黒猫が走り出す。周囲の猫も後に続く。連鎖反応でほぼ全ての猫がゼロに群がる。
「猫塗れなのですー」
　猫の波にゼロは呑まれた。
「柔らかいにゃ！」
「良い匂いがするにゃ！」
「不思議な感じがするにゃ！」
「突然きたにゃ！　定食屋と同じにゃ！」
　興奮した猫達はゼロの肩や頭にも乗った。
「定食屋なのです？」
「そうにゃ！　あの道から行けるにゃ！」
　右肩に乗った白猫が前脚を横手に向ける。
「行ってみるのですー」
　新たな道に向かって歩き出す。猫達は飛び降りて、またにゃー、と一斉に前脚を振った。
　鳥居に囲まれた新たな道は緩やかな下りになっていた。弾むように歩いていくと木造の建物がひっそりと佇む。
「着いたのです」
　ゼロは軽く腹部を摩ると引き戸に手を掛けた。少し建付けが悪く、ガタガタと鳴らしながら開けた。
「ご飯を食べにきたのですー」
　言いながら店内に入る。テーブル席に座っていた河童が振り向いた。
「ほう、人間の童か。珍客だな」
「どれどれ、あれか。何やら妙な気配を感じる」
　テーブルに乗った状態で皿の中身をガツガツと食べていたカマイタチが顔を上げた。
　ゼロは奥まったテーブル席を選んだ。
　目にしたろくろ首が首を伸ばした。
「いらっしゃいませ。愛らしいお嬢さん」
「ゼロですー。メニューを見るのです」
　テーブルに置かれたメニュー表を引き寄せて開いた。書かれた料理名を一通り見て、一つを指差した。
「人だま天ぷら定食にするのです」
「ご注文、承りました。お冷やをどうぞ」
　ろくろ首は水の入ったコップをテーブルに置くと厨房にいた一つ目小僧に料理名を告げた。
「オイラに任せな」
　白い割烹着の袖を捲って天婦羅の衣を作る。終えると大きな容器を開けた。腕を突っ込み、活きの良い人魂を掴み出す。衣を塗して適温の油で揚げていく。
「良い匂いがするのですー」
「特製の油を使っているからな」
　一つ目小僧は各種の食材を合わせた掻き揚げを追加した。
　ゼロは足をぶらぶらさせながら料理の工程を眺めていた。
「これが人だま天ぷら定食だ。味わって食べてくれよな」
　一つ目小僧は盆に載せた状態でゼロに差し出す。受け取ってテーブルに置いた。
「お味噌汁が赤いのです。紅ショウガの漬物も赤いのです。お赤飯でご飯も赤いのです。人だまはこんがり狐色なのですー。メインから食べるのです」
　店内の客は食べる手を止めた。ゼロの様子をそれとなく窺う。
　ゼロは竹筒に入っていた割り箸を使って天婦羅を切り分ける。一口分を挟んで天ツユに浸し、一口で食べた。小気味いい音はすぐに無くなった。
「香ばしくて少しの甘味があって美味しいのです」
「人間の口にも合うのか。それは良かった」
　客の河童が目を細めた。
　ゼロは切り分けたものに箸を伸ばす。ギシッと椅子が軋んだ。
「ゼロが大きくなっているのです」
「本来の姿に戻るようだな」
　一つ目小僧は大きな目を丸くして言った。
「お金はここに置いておくのです。店が壊れないように外に出るのです」
　ゼロは天井を気にしながら急いで外に出た。巨大化は止まらない。
　空から銀朱駅の周辺を眺める。鳥居が連なる他の道にも目を向けた。
「先が見えないのです。不思議な道なのです」
　頭が雲を突き抜けた。
「このままでは霊界が壊れてしまうのです」
　ゼロは『夢の中へ』のろっこんを発動した。

　夢の中で散歩の続きを始める。
「人だまの天ぷらを、全部、食べられなかったのは残念なのですー」
　乏しい表情でゼロは弾むように歩いた。

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