霊界線、浅縹（あさはなだ）駅に出発進行｜リアクション

霊界線、浅縹（あさはなだ）駅に出発進行

　白石龍樹は大きく腕を振って歩く。好奇心に溢れた目で周囲を窺う。
　何かを見つけたのか。急に走り出した。路上に落ちていた物を素早く拾う。
「ゲーセンのコインかよ」
　言いながらハーフパンツのポケットに入れた。
　前方の人物に目が留まる。龍樹と同じように何かを探しているようだった。
「小さなおっさん、じゃない？　胸があるような……」
　茶色の作務衣姿の猫館鳴がせかせかと歩いてきた。
　龍樹は笑顔で声を掛ける。
「そこのねえちゃん、探し物なら手伝うぜ」
「物ではなくて、一緒に行動してくれる人を探しているんだけど」
　鳴は龍樹を見た。長袖とＴシャツを重ね着した姿が活発な印象を受ける。ただし背は低く、幼さが残る顔は中学生に見えない。
「小学生くらいだよね？」
「小五だぜ」
「やっぱりね。小学生に危ないことはさせられないし……」
　鳴は迷うような表情で口籠る。逆に龍樹は目を輝かせた。
「だいじょうぶだって。こう見えて、危ないことや不思議なことには慣れてるんだぜ」
「……それなら付いてきて貰おうかな。あたしは猫館鳴。よろしくね」
「俺は白石龍樹だぜ。よろしくな、鳴ねえちゃん」
　二人は笑顔を交わし、現場である九夜山へと歩き出した。

　二人は霧の中で立ち尽くす。視界は悪いが方向によって、ぼんやりと先が見える。
　鳴は目を凝らすようにして言った。
「ここって九夜山と違うよね？」
「霧は同じだけど、温泉っぽい」
　龍樹は小刻みに息を吸った。硫黄を強く感じる方向に摺り足で向かう。その背中を見ながら鳴が付いていった。
　先頭をゆく龍樹が立ち止まった。
「温泉だ！」
　その声を聞いて鳴は横に並んだ。垣根の向こうに青い石に囲まれた露天風呂が見える。手前には小屋があり、出入口となっていた。
「温泉はいいよね。猫鳴館の地下にもあって、ゆったりした気分になれる」
「でもさ、これって怪しいだろ？」
「そうかな。まあ、この場所がすでにおかしいんだけどね」
　用心深い目を周囲に向ける。
「山にいたからタヌキのせいかもしれないぜ。服を脱いで温泉に入ったつもりが、ハダカで葉っぱに埋まってたりとかさ」
「ありそうだね。じゃあ、あそこの足湯ならどう？　葉っぱでも問題ないよね」
　鳴は湯煙を挙げる部分を指差した。
「あれくらいなら」
　二人は揃って近づいた。小川くらいの幅で底がはっきりと見える。
　先に鳴が草履と白足袋を脱いだ。縁に座って流れに素足を浸す。
「あー、これはいいわ」
　目にした龍樹は急いで運動物と靴下を脱いた。隣に座って同じように足を入れる。
「このあったかさは本物みたいだな！」
「身体まで温まる。ここは少し涼しいから、探索はもう少し温まってからだね」
「寝子島少年探偵団だな」
「それをいうなら寝子島少年少女探偵団だよ」
　鳴は豊かな胸を突き出すようにして言った。

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