霊界線、浅縹（あさはなだ）駅に出発進行｜リアクション

霊界線、浅縹（あさはなだ）駅に出発進行

　九夜山の山道から外れた斜面を光村日向と光村千恵の兄妹が、しっかりした足取りで突き進む。
「お兄ちゃん、私が先を歩くね」
「僕が先頭で安全を確認した方が良くないかい？」
「こんなところで滑り落ちたりしないよ。それに山菜のことなら任せてよ」
　千恵はスマートフォンを突き出した。画面には『山菜と木の実の図鑑』というサイトが表示されていた。下部に写真が載せられ、詳細な情報が書き込まれている。
「わかった、任せるよ」
　やんわりした一言で折れた。
　千恵は機嫌よく歩き出す。日向はぴったりと後ろに付けた。猫柄のリュックを目にしながら見守った。
　少し霧が出てきた。千恵はスマートフォンの画面と周囲を何度も見比べる。
「お兄ちゃん、ここ山菜がいっぱいだよ！」
「そうみたいだ」
　日向はウィンドブレーカーのポケットからビニール袋を取り出した。
「はい、千恵」
「ありがとう。いっぱい採って帰ろうね」
「そうだね。足元には気を付けて」
「わかってるよ」
　ビニール袋を受け取った千恵は早々と山菜を採り始める。スマートフォンの画面を見ながら霧の中をちょこちょこと動き回る。
「これ、図鑑にあるウワバミソウだよ！」
　夢中になって葉を摘んでいく。はしゃぐ妹の姿に日向は、足元も見てよ、と苦笑いで山菜を探し始めた。
「あ、これはフキだね。しっかりアク抜きすれば、今でも美味しく食べられるんだよね。千恵、聞いてる？」
　日向は顔を上げた。いつの間にか霧は濃さを増し、妹の姿はどこにもなかった。
「千恵、どこだ！」
　表情が強張る。日向は霧の中へ突っ込んでいった。

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