- 0
- 0
- 種族
-
- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
霊界線、浅縹（あさはなだ）駅に出発進行
ゼロ・シーアールシーが弾むような足取りで九夜山を歩く。登山の格好とは異なり、白いふわふわしたワンピースを着ていた。銀色の髪は長く、緩やかな波を描いて膝下で靡く。
袈裟懸けにした水筒だけが山に相応しい姿と言えた。
「のんびりお散歩なのですー」
歩き始めとあって勢いがある。上り坂を苦にすることなく軽やかに進んでゆく。
初夏の日差しは枝葉で適度に防がれ、心地よい温度となった。ただしゼロには少し堪えた。歩く足に力がなくなり、ふらふらと上体が揺れ始める。
「眠いのですー。ふらふらするのですー」
山道の先は急な上り坂になっていた。ゼロは薄れた意識の中でろっこんの使用を決めた。直後に『夢の中へ』が発動。衣服を着たまま夢の中に入り、ゼロの姿は忽然と消えた。
その十数分後、霧が立ち込める中に現れた。
「白いのです」
言いながら一歩を踏み出すと一瞬で姿が見えなくなった。
ゼロは霧の中に立ち尽くす。正面の駅舎にぼんやりした目を向けた。駅名を目にして頭を真横に傾ける。目にした人影が音もなく近付き、霊界線、浅縹駅（あさはなだえき）と読むんだよ、と教えた。
「ここは霊界なのですー」
ゼロなりに喜ぶと声が聞こえた左手に目を向ける。そこに人の姿はなかった。不審に思うことはなく、ゼロは変わらない足取りで歩き始めた。
霧の中に揺らめくように露天風呂が現れた。組まれた石は明るい青色でトルコ石を思わせた。
興味を覚えたゼロは手前の小屋に入る。番台のような物はなかった。男湯と女湯の出入り口は暖簾が教えてくれた。
「ゼロは女湯に入るのですー」
暖簾を潜ると脱衣所があった。空いた籠に脱いだ服を入れていると露天風呂の方から話し声が聞こえてきた。
ゼロは水筒と容器を持って白く煙る中にいそいそと入っていった。
「見たことない娘が来たよ」
「新入りさんのようだね」
湯に肩まで浸かっていた二人がゼロに好意的な目を向ける。
「ゼロなのですー」
臆することなく近くの木桶を手にした。掛かり湯を済ませると水筒と容器を縁に置いて湯に浸かる。
「良いお湯なのですー」
「冷えた豆腐をどうぞ」
丸顔の一人が湯面に浮いたお盆を差し出す。皿の上には艶やかな絹ごし豆腐が載っていた。
「豆腐小僧さん、ありがとうなのですー」
「違うよ。あたしは豆腐小娘だよ。ここは女湯だよ」
「小僧だったら、わたしが許さないよ」
白い長髪の女性が口を尖らせた。近くにあった湯口に向かって息を吹き掛けると一部が凍った。
「雪女さんが温泉に入っているのですー」
「ここの湯は冷えた心にも効くからね」
苦笑いの雪女に豆腐小娘がにやりと笑う。
「最近、雪男に振られたんだよね」
「その話はいいって。湿っぽくなるよ」
「それなら最近の霊界の楽しい話を聞きたいのですー。謎茶とお茶請けに謎団子なのですー」
ゼロは容器と水筒を差し出す。雪女は湯口で両手に湯を受けて強めに息を吹き付けた。
「わたし特製、氷のコップだよ」
三人分を用意して飲食をしながら和やかに話が進む。
近況報告から始まり、好みの相手を経て最近の噂話に突入した。
豆腐小娘は得意げな顔で言った。
「やっぱりトレンドは子猫のあやかしだと思うよ」
「ああ、あれね。ギャンブル好きが追い回しているって話だね」
「可愛い猫さんとお近付きになりたいのですー」
「というか、一本のヒゲをお守りにすると幸運に恵まれるって話だよ」
姦しい状態が続き、のぼせる寸前でゼロは湯から上がった。二人は長湯が好みらしく、白く煙る中で別れた。
さっぱりとしたゼロはふわふわのワンピース姿で歩き出す。
「なにかくるのですー」
霧で覆われた先に目を向ける。小さな人影は走っていてゼロのふわふわのスカートにぶつかった。
「子猫さんなのです」
「追われているの！」
「スカートの中に隠れるのですー」
言われた通りに子猫は四つん這いでスカートの中に身を隠した。
「どこだ！」
「向こうを探すぞ！」
荒々しい声が急速に迫る。霧の中から二足歩行の狼が現れた。ゼロを鋭い眼で睨むと、おい、と低い声を出した。
「ゼロなのですー」
「名前はどうでもいい。子猫を見なかったか。毛が必要なんだ」
「これくらいの大きさだ」
狼は毛むくじゃらの手で子猫の身長を伝える。ゼロは頭を左右に振った。
「見ていないのですー。代わりにゼロの髪の毛をあげます」
引っこ抜いた髪の毛を二本、二人の狼に渡した。腑に落ちない顔をしながらも受け取り、別の方向に走り去った。
「出てきてもいいのですー」
「ありがとう、お姉ちゃん。これ、お礼だよ」
子猫は一本の毛を渡すと大きく手を振りながら霧の中に消えていった。
「ゼロのお守りにするのですー」
無表情でゼロは歩き、深い霧の中へと溶け込んだ。
袈裟懸けにした水筒だけが山に相応しい姿と言えた。
「のんびりお散歩なのですー」
歩き始めとあって勢いがある。上り坂を苦にすることなく軽やかに進んでゆく。
初夏の日差しは枝葉で適度に防がれ、心地よい温度となった。ただしゼロには少し堪えた。歩く足に力がなくなり、ふらふらと上体が揺れ始める。
「眠いのですー。ふらふらするのですー」
山道の先は急な上り坂になっていた。ゼロは薄れた意識の中でろっこんの使用を決めた。直後に『夢の中へ』が発動。衣服を着たまま夢の中に入り、ゼロの姿は忽然と消えた。
その十数分後、霧が立ち込める中に現れた。
「白いのです」
言いながら一歩を踏み出すと一瞬で姿が見えなくなった。
ゼロは霧の中に立ち尽くす。正面の駅舎にぼんやりした目を向けた。駅名を目にして頭を真横に傾ける。目にした人影が音もなく近付き、霊界線、浅縹駅（あさはなだえき）と読むんだよ、と教えた。
「ここは霊界なのですー」
ゼロなりに喜ぶと声が聞こえた左手に目を向ける。そこに人の姿はなかった。不審に思うことはなく、ゼロは変わらない足取りで歩き始めた。
霧の中に揺らめくように露天風呂が現れた。組まれた石は明るい青色でトルコ石を思わせた。
興味を覚えたゼロは手前の小屋に入る。番台のような物はなかった。男湯と女湯の出入り口は暖簾が教えてくれた。
「ゼロは女湯に入るのですー」
暖簾を潜ると脱衣所があった。空いた籠に脱いだ服を入れていると露天風呂の方から話し声が聞こえてきた。
ゼロは水筒と容器を持って白く煙る中にいそいそと入っていった。
「見たことない娘が来たよ」
「新入りさんのようだね」
湯に肩まで浸かっていた二人がゼロに好意的な目を向ける。
「ゼロなのですー」
臆することなく近くの木桶を手にした。掛かり湯を済ませると水筒と容器を縁に置いて湯に浸かる。
「良いお湯なのですー」
「冷えた豆腐をどうぞ」
丸顔の一人が湯面に浮いたお盆を差し出す。皿の上には艶やかな絹ごし豆腐が載っていた。
「豆腐小僧さん、ありがとうなのですー」
「違うよ。あたしは豆腐小娘だよ。ここは女湯だよ」
「小僧だったら、わたしが許さないよ」
白い長髪の女性が口を尖らせた。近くにあった湯口に向かって息を吹き掛けると一部が凍った。
「雪女さんが温泉に入っているのですー」
「ここの湯は冷えた心にも効くからね」
苦笑いの雪女に豆腐小娘がにやりと笑う。
「最近、雪男に振られたんだよね」
「その話はいいって。湿っぽくなるよ」
「それなら最近の霊界の楽しい話を聞きたいのですー。謎茶とお茶請けに謎団子なのですー」
ゼロは容器と水筒を差し出す。雪女は湯口で両手に湯を受けて強めに息を吹き付けた。
「わたし特製、氷のコップだよ」
三人分を用意して飲食をしながら和やかに話が進む。
近況報告から始まり、好みの相手を経て最近の噂話に突入した。
豆腐小娘は得意げな顔で言った。
「やっぱりトレンドは子猫のあやかしだと思うよ」
「ああ、あれね。ギャンブル好きが追い回しているって話だね」
「可愛い猫さんとお近付きになりたいのですー」
「というか、一本のヒゲをお守りにすると幸運に恵まれるって話だよ」
姦しい状態が続き、のぼせる寸前でゼロは湯から上がった。二人は長湯が好みらしく、白く煙る中で別れた。
さっぱりとしたゼロはふわふわのワンピース姿で歩き出す。
「なにかくるのですー」
霧で覆われた先に目を向ける。小さな人影は走っていてゼロのふわふわのスカートにぶつかった。
「子猫さんなのです」
「追われているの！」
「スカートの中に隠れるのですー」
言われた通りに子猫は四つん這いでスカートの中に身を隠した。
「どこだ！」
「向こうを探すぞ！」
荒々しい声が急速に迫る。霧の中から二足歩行の狼が現れた。ゼロを鋭い眼で睨むと、おい、と低い声を出した。
「ゼロなのですー」
「名前はどうでもいい。子猫を見なかったか。毛が必要なんだ」
「これくらいの大きさだ」
狼は毛むくじゃらの手で子猫の身長を伝える。ゼロは頭を左右に振った。
「見ていないのですー。代わりにゼロの髪の毛をあげます」
引っこ抜いた髪の毛を二本、二人の狼に渡した。腑に落ちない顔をしながらも受け取り、別の方向に走り去った。
「出てきてもいいのですー」
「ありがとう、お姉ちゃん。これ、お礼だよ」
子猫は一本の毛を渡すと大きく手を振りながら霧の中に消えていった。
「ゼロのお守りにするのですー」
無表情でゼロは歩き、深い霧の中へと溶け込んだ。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2021年09月19日
- 参加申し込みの期限
-
- 2021年09月26日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2021年09月26日 11時00分
