【球技大会】思い出に残る初夏の大会へ｜リアクション

【球技大会】思い出に残る初夏の大会へ

　四限目の授業が終わろうとしていた。二年十組は体育科らしく、体育理論の授業を受けていた。一部の男子が机の中に手を入れて身を固くする。
　その中に響蒼留人の姿もあった。切れ長の目は鋭くなり、神経を研ぎ澄ましていく。
　チャイムが鳴った。数人の男子が弁当箱を取り出した。
「今日はここまでにする」
　教師の一言で号令が掛けられ、礼を経て着席となった。
「やれるよな！」
　蒼留人は声を荒げて弁当箱の蓋を開ける。周囲の男子は、任せろ、と即答した。
　猛烈な勢いで食べ始める。味わう前に呑み込み、胸を叩く者もいた。
「終わった！」
　蒼留人が一番手で立ち上がる。次々に続き、廊下へ飛び出していった。

　蒼留人は全力の走りで体育館に一番乗りを果たした。剣道部の走り込みのおかげなのか。息切れ一つしていない。用具を収めたところに突っ込んでバスケットボールを籠ごと持ち出した。
　そこにクラスの男子達が駆け込んできた。
　蒼留人は全員を見て言った。
「柔軟から始める。皆、それでいいよな」
「もちろんだ」
「昼休みの時間は短い。早くやろう」
「三人制の実践もいいな。あ、それとストリートバスケができるところを見つけた。放課後はそっちで練習しようぜ」
「わかった。ストリートバスケは今日からでも始めたい。皆の時間が合えばいいが」
　目を向けると全員が胸を張って、やろうぜ、と声を合わせた。
　蒼留人を中心にしてストレッチが始まる。誰の目も真剣で、負けられない、という強い意志が宿っていた。
「チームプレイか。なんか、いいな！」
　蒼留人はぎらついた目で笑った。

　連日、練習は続けられた。昼休みは体育館でドリブルやシュートを磨く。放課後はストリートバスケに挑む。先を越されて待つこともあるが、その時は基礎トレーニングで時間を潰した。
　今日も空が真っ赤に染まるまで練習に打ち込んだ。
「まだ時間はあるが」
　蒼留人は名残惜しそうに空を見上げる。名案を思い付くことはなく、遅い歩みで桜花寮の門を通り抜けた。
　ボールの弾むような音が聞こえる。見ると一人の寮生がボールを手にしていた。
　蒼留人の目が輝く。
「お前も練習か。それなら俺と一緒にやろう」
「響か。俺としても助かる」
　持っていたボールを地面に落とし、踏み付ける。
「今年はクラスが別だが、バスケで勝利を掴むのは俺だ！」
「俺はサッカーだが」
　靴の先にボールを載せて撥ね上げる。右の太腿で受けて左へ渡し、リフティングを始めた。
　目にした蒼留人は肩を落とす。
「俺はバスケだから練習にならないな」
「そんなことはないと思うが」
　左の太腿で強めにボールを上げた。落ちてきたところに頭を合わせる。
　ヘディングのボールは強烈で蒼留人は両手で受け止めた。
「びっくりするだろ」
「パスが繋がったな。今度はそっちの番だ」
　少し離れて手招きをする。蒼留人はボールを見て、やるか、と呟いてチェストパスを放つ。
　相手は胸でボールをトラップして地面に落とし、弾んだ直後に蹴った。
「うわっ、ちょっと待て！　俺はキーパーじゃないぞ！」
「悪い。強すぎた」
　悪戯っぽい笑みに、お前なぁ、と蒼留人は苦笑いを返した。