【球技大会】思い出に残る初夏の大会へ｜リアクション

【球技大会】思い出に残る初夏の大会へ

　保健委員会の救護用のテントにはたくさんの生徒が運び込まれた。女子サッカーで怪我人が多く出て各委員が治療に当たる。
　委員長である椎井莉鳥も委員の一人として動く。
「少し我慢して」
「わかりました」
　莉鳥は飲み水にも使えるペットボトルの蓋を開けた。右膝を立てるようにして座る女子と向き合い、血が滲む膝頭に水を掛けた。
　顔を顰める女子に、すぐに終わるから、と手を動かしながら声を掛けた。
「傷は浅いから被覆材で覆うわ」
「あの、消毒は？」
「水で綺麗に洗い流したので必要ないわ。それに消毒液を使うと良い菌まで死んでしまって治りが遅くなるのよ」
　丁寧な説明の間に手早く治療を終えた。
　女子は笑顔を見せた。
「ありがとうございます」
「気にしないで」
「委員長、いいですか？」
　委員の男子が困ったような表情で立っていた。莉鳥は立ち上がると小声で言った。
「何か問題でも？」
「捻挫の女子が複数いて、判断に迷ってしまって」
「痛みが酷いなら冷やして。腫れが酷い時はきつく縛って範囲を広げないように」
　別ところで委員の女子が手を挙げた。莉鳥は男子の肩をポンと励ますように叩き、急ぎ足で向かった。

　莉鳥は一時的に保健委員の仕事を抜けた。女子サッカー選手としてグラウンドに立つ。ポジションはフォワード。陸上部の脚を活かし、ボールを敵陣に運ぶ。単独でゴールを狙うことは少なく、状況に合わせてパスを出した。
　後半のロスタイムに入った。仲間の一人が思い切ってゴールを狙う。キーパーは辛うじてパンチングで弾いた。
　そのルーズボールに莉鳥が右のキックを合わせる。やや右に曲がったボールはコーナーの隅に突き刺さり、見事にゴールを決めた。
　その瞬間、莉鳥は右の拳を軽く握った。
「勝ったよ！」
「やったー！」
　勝利にはしゃぐ仲間達を見て莉鳥の目が少し優しくなった。