【球技大会】思い出に残る初夏の大会へ｜リアクション

【球技大会】思い出に残る初夏の大会へ

　放課後となり、月原想花は北校舎に訪れた。その足取りは重く、階段を上がりながら溜息を吐いた。
　――ぼくはスポーツに向いていないんだよ。どこからどうみても文科系女子だよね。部室の隅っこでいつまでも本を読んでいたい。そういうタイプなんだよ。
　眼鏡の奥の目が嗤う。
　――一応、サッカーに決めたけど、それは文武両道の弟がバスケ部でレギュラーをしているからで、一種の拒絶反応みたいなものなんだよ。できるなら球技大会には出たくない。猫鳴館の薄暗い部屋で丸くなって、一日中、横になっていたいんだよ。
　だってサッカーだよ？　今までしたこともないし、ルールだってわからない。今から図書委員の仕事で図書室にいくから本で学ぶことはできると思うけど。
　溜息と共に三回に着いた。賑やかな声に顔を上げると図書室に多くの人が入っていった。
「何かあったのかな？」
　訝しく思いながら想花は図書室の扉を開く。大勢の生徒が視界を埋め尽くす。受付には長蛇の列ができていて対応に追われる図書委員の姿に面食らう。
　おどおどした状態で中に入る。図書委員長の恵御納夏朝が気付いて小さく手を挙げた。
「月原さん、ここは僕達に任せて。一年生は初めてで緊張すると思うけど、球技大会を頑張ってね」
「えっと、ありがとうございます」
「ルールの本のほとんどが貸出し中だから、ポスターでルールを覚えていってね」
　垂れた前髪を掻き上げてにっこりと笑う。
「これ、いいですか」
「はい、大丈夫です」
　夏朝は差し出された本を受け取った。
　一礼した想花はポスターのところに移動する。二種類の球技のルールが書かれていた。しばらく眺めたあと、そっと離れた。
　開いていた扉から外に出て息を吐いた。
「でも、いいのかな」
　後ろを振り返る。
「いいんだよね」
　卑屈な笑みで歩き出した。

　想花は第一グラウンドに向かった。そこには多くの生徒達が練習に励んでいる。クラスメイトの姿もあった。
「ぼくもやるよ」
　一声掛けたあと、転がっていたボールでドリブルを始める。
「どうして？」
　真っすぐに走れない。蹴る度にボールは横にいく。戻ろうとしても、また違う方向に転がった。
「……もう、いいよ」
　息が切れた。想花はだらりと両手を下げた状態で帰っていった。