【エンカウント！　２人は○○？】

　浮舟 久雨は魔法少女世界に転送されるやいなや、テオから事情を聞き出し早速変身する事にした。

「数多を救い滅するは、天より降りし銀の雫！　魔法将女☆クー、見参！」


「何だこれはー！？」
　クーは自身の衣装を確認して顔から火が出そうなほど恥ずかしがった。
「髪型がポニーテールになったのは許す。問題は服だ！　ロングコートの様だが、腰から下の前部分は開いていて、ワンピース水着の様な下着が出ているではないか……！」
　まさにパンツじゃないから恥ずかしくない理論なのだが、クーは既にテンパりまくっている。
「これではスカートの方がまだマシだ！　そして……ストッキングに付いているこれ、確かガーターベルトとか……」
　ふとももを艶かしく彩るソレは、ストッキングとワンピース水着型スーツと連結していた。
「ああ、なんて痴態だ！　クッ、こうなったら無心で行くぞ！！」
　既に心が折れそうなクーだが、この事件解決への姿勢は並々ならぬものを持っていた。
「もしかしたらこの世界の主、魔王とやらは……？　ともあれ、会わねばなるまい」
　クーは身の丈ほどの錫杖を具現化すると、それを媒介としてブーツに魔力を篭める。
　彼女の主力武器は錫杖ではなく、このブーツなのだ。
「ブラスト・オフッ！！」
　呪文を唱えながら大地を蹴れば、彼女は空間を蹴り上げて空を文字通り『疾走』しだした！
「うむ！　この力なら大空を駆けていける！　っと、おや？」
　クーは眼下に２組の魔法少女が退治しているのを見付けた。

「りぃは騙されないのですよー！」
　ズビシッと指差す葛城 璃人が２人の女性に詰め寄った。
「お姉さんたち、本当は男ですね！？　魔力で外見的特徴でごまかそうだなんて、りぃには無駄な足掻きなのです！」
　茶髪と灰髪の大人びた少女２人は葛城にガンくれられ、懸命に弁解しだす。
「なんでそんなことで因縁付けられなきゃならねぇんだよ？」
　灰髪の少女――霧生 深雪は面倒臭そうに答えた。
「そ、そこの若者、りぃ君だったか？　お姉さんは君たちと同じ光の魔法少女だぞ！」
　茶髪の女性――霧生 渚砂も葛城をなだめるように口を開く。
「つまりお姉さん達は仲間だぞ！　協力して魔王を倒そう！　こんなことして何になるんだ！？」
　２人は本能的に『元男』であることを隠した。
　目の前の人物にはそれが最善だと、無意識のうちに勘付いたのだ。
　そんな葛城は笑顔で答えた。
「決まってるじゃないですか！　光側を騙っている魔法少女（♂）を見付けて、りぃが正気に戻してあげるのですよ！　折角可愛い衣装を着てるのに正気じゃないとかもったいないのです！　あれですよ、その過程で衣装が駄目になったとしても、現実世界の方でまた可愛い衣装を着せてあげますからどうか許してくださいです！」
「深雪ー！　りぃ君殺る気満々だぞー！！」
　渚砂は奥歯をガタガタ震わせていた。
　深雪も頭を抱えて嘆息を吐く。
「言いがかりも大概にしろよ……」
　内心、「本当は男だと言わなくて良かった」と安堵していた。
「だってぇ、思ったほど残った光の魔法少女（♂）がいなくて、りぃは深海より深く傷付いているのですよ……！　途中で合流したルシフェル様は遠慮なくぶっぱなしましたけど」
　ルシフェル、の名前に２人とも顔を強ばらせた。
「我（オレ）を呼んだか？」
　葛城のそばに転移魔法で登場するのは、既にボロボロの半裸状態な葦原 忍穂。
　自称：片翼の堕天使―ルシフェル―。
「我が名は片翼の堕天使―ルシフェル―。親しみを込めてルシフェル様と呼べ」
「「紛らわしいな！」」
　深雪と渚砂のツッコミがシンクロした。
「しかし何故、既にボロボロなんだ？」
　深雪の疑問に、自称かっこいいポーズを取りながら回想するルシフェル様。
「我が信奉者はこの世界に飲まれ掛かっていた我を救ってくれたのだ。これはその際の代償である」
　つまり、彼の邪気眼が強過ぎたため世界とシンクロしかけていたところを、葛城が「闇の魔法少女（♂）を修正するのです！」と意気込んで服ごとぶっ飛ばしたわけなのだ。
「ふん、我にとって服など瑣末なこと。真の堕天使は魂の輝きで存在し続ける。我に似合うモノを着る、そのことを何故恥じねばならない？」
　上半身裸の原始人スタイルのルシフェル様にとって、ルシフェルであるという存在意義こそが重要である！
「それにこの世界、服など魔力で再構成すればよい。信奉者の一撃など、稚児の戯れに等しい……」
　げふっ、と口から血を吐きながらルシフェル様はほくそ笑んだ。
「「思いのほか深刻なダメージ食らってるー！！」」
　またもや深雪と渚砂のツッコミがシンクロした。
「ああもう！　埒あかねぇ！　こうなったら変身して黙らせるか！」
「おー！　お姉さんも変身するぞ！」
　深雪と渚砂がエナジーバッジを正面に掲げ、呪文を唱え出す！

渚砂「ニュクス！」
深雪「スノウ！」
「「マキシマムドライブレヴォリューション！！」」

　２人の息の合った掛け声が魔力とともに発散される！
　魔力の渦が２人を取り囲み、姿が徐々に変わっていく！
　

「月夜に響くは静寂の調べ！　キリュキ、……キリュニュクチュ！（噛んだ）」

「降り積もるは雪の旋律！　キリュスノウ！」

「「２人はキリュキュリャ！」」

　ニュクスは白と黒が基調の背中が開いたベスト＋チューブトップ＋ミニスカに黄色のマントを羽織り、スノウは白を基調とした露出の高い服装が特徴だ。
「言いにくいぞ、深雪！　キュアって言えないぞ！！」
「仕方ねーだろ、渚砂！　そっちだってキュリャってなんだよ！？」
　しかし、変身直後からセリフを噛んだ事の責任の擦り付け合いだ！
「ふっふっふー、仲間割れとは醜いですね～♪　さて、りぃたちも変身するのです！　いきましょう～ルシさま！」
「ふっ、我の力の前に平伏すがいい！！」
　葛城とルシフェル様も変身を開始！

葛城「メットル・ユヌ・ヴォレー☆」
ルシ「我が身に宿りし力よ、今ここに顕現せよ！」

　葛城とルシフェル様が眩い光に包まれ、変身を完了させた！
　眩い光から飛び出してきたのは、これぞ魔法少女と言わんばかりの葛城の姿であった！

「魔法少女☆りぃ見参っ！　闇の魔法少女さん、今正気に戻してあげますからね、って、あれ？」
　りぃが首を傾げている横で、ルシフェル様も変身を完了。
　黒を基調として、差し色の赤が背徳的な印象を与えるゴスパンクチックな衣装だ！
　ちなみに性別も♂から♀へ変わっていた。
　りぃに殴られたのが地味に堪えたのであろう。
「混沌の世界へ今まさに我、降臨！　片翼の堕天使―ルシフェル―、覚醒（リアライズ）！」
　ルシ様はキメ顔で言い放った。
「ルシさま、もしかしたらりぃは勘違いしていたのかもしれないのです……！」
「む？　信奉者よ、どういうことだ？」
　目の前のコンビは変身しても女性のまま。
　魔力で姿を変えているわけでもなさそうだ。
「ご、ごめんなさいですよ……。てっきりおふたりは男だとばっかり……」
　ペコペコと謝るりぃの姿に、キリュキュア２人は複雑な想いを胸に秘めつつ許す事にした。
「まぁ……、勘違いは誰にでもあるよな、渚砂？」
「そうだぞ！　おにい、げふんお姉さんもよく間違えて深雪に怒られてるぞ！」
　そこは誇るべきとこじゃねぇだろ、と渚砂の脇腹へ肘を叩き込む深雪である。
「人は過ちを犯す生き物……。しかしてそのカルマと共に歩むのも人間……。我々は罪深いのだよ」
　ルシ様は憂いを顔に浮かべながら遠くを見詰めていた。
　そこへ天空から舞い降りるは魔法将女☆クーだ。
「何やら物騒な空気を感じたのでやってきたが……、仲間割れか？」
　りぃがクーへ一部始終を話すと、クーはやれやれと言わんばかりに頭を振った。
「仲間同士でいがみ合う必要などないだろう？　ここは私たち５人でチームを組んでみるのはどうだ？　人数が多い方が、闇の魔法少女と対峙する際に有効であろう」
　クーの提案はキリュキュアと りぃ＆ルシ様コンビで数秒間の沈黙があったが、互いにゆっくり頷いてみせた。
「よし。貴様たちの指揮はこの私、魔法将女☆クーが執ろう。私のろっこんは計略に強い。役に立つはずだ」
　というわけで、消去法でクーにチームの指揮権が渡ることとなる。