【エンカウント！　羞恥心は捨て去るもの！！】

「創君が闇堕ちして、どこの馬の骨かもわからない奴のハーレムに！？」
　添木 牡丹は目の前のテオ（！）から事情を聞いて卒倒しそうになった。
「って、あなたは死んだって聞いてたのですが……」
「この世界がお……僕の死を否定するんだよね」
　マスコットテオがうんざりした表情で答えた。
「僕はどんなに酷い目にあっても蘇生するんだ……。僕自身が一番驚いてるよ。これも暴走もれいびが生み出した世界の法則なんだろうね」
「つまり、今のあなたは雑誌で叩き潰しても殺虫剤掛けてもしぶとく生き残るのですか？」
「僕をゴキブリと一緒にしないでくれないかな？」
　添木の例えに青色吐息のテオだ。
　ほぼ同時期に光の魔法少女たちの前へ現れた謎が、今ここに明かされたわけである。
　……その度に彼は闇の魔法少女に吹っ飛ばされていたわけだが。
「じゃあ、僕は行くね？　くれぐれも闇の魔法少女には充分気を付け……」

「バルツァーン、いっけー！！」
『ＮＡＧＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯ！！！』

　添木の目の前を猫型魔導騎士巨大ロボ（鬼河内搭乗中）が高速で横断！
　テオは潰れた粘土の如くぺしゃんこになった！
「きゃああっ！！　轢き逃げです～！！」
　驚愕する添木！
　しかし、ペラペラのテオは何事もなかったかのようにすくっと立ち上がると、風に乗って次の光の魔法少女のもとへ駆け付けるのであった。
　本当にテオはこの世界では不死身のようだ。
「あの猫さんはどうでもいいとして、創くんが大変なのです～！」
　自分のマイスイートなワンコ系後輩が、変態魔王の手に堕ちているだなんて！
　添木の中の暗黒面がふつふつと外へ漏れ出していく。
　このままでは彼女は闇落ちしてしまう！
「絶対に許さない……魔王……！」
　だが、添木は自我を保ったまま、エナジーバッジを握り締めた。
「創君を助ける為なら……！　利用できるものは何でも利用してやるッ！　その為なら、私は……！」
　暗黒の魔力と愛の光に満ちた魔力がまるで太極図のように彼女の体へ取り巻くと、一気に強大な魔力反応で周囲が爆発を起こした！
「この世界の鍵、未来石（フューチャーストーン）を手に入れて、最強の魔法少女になる！」

　マジカルチェンジ！　ラブカルテ！

　次の瞬間、桃色の眩い光が添木を包み込めば、私服のチャイナドレスからピンクのミニスカ看護服に大変身！
　自慢の大きな胸をたゆんっとさせて、注射片手に薄ら笑い！

「愛の使者、マジカル★ナース牡丹ですぅ～！　悪い子は～お仕置きしちゃうぞ♪　キャハ★」
　光の魔法少女なのに、台詞の節々が病んでる、愛のメンヘラ系光の魔法少女の爆誕だ！
「おやぁ？　早速ぅ、気配を感じましたよ～？」
　ナース牡丹は振り向きざまに魔法を行使！
「マジカル★九七式自動砲♪」
　掛け声と共に、フルオートの無人魔砲が出現！
　無骨なフォルムの銃身が一度連続で火を吹けば、目の前のブロック塀は一瞬のうちに木っ端微塵に！
「きゃあああー！！　私は闇の魔法少女じゃないよ！！」
　青ざめた顔で両手を上げて飛び出てくるのは雪原 真白。
「私も光の魔法少女だよ！　仲間がいないかなって思って探していただけだもん！」
　雪原は最初こそこの世界に転送されて戸惑ったが、持ち前の楽観的思考で「ちょっと楽しそう……だなんて思ってないんだからねっ！」とツンデレ発言を口にしていた。
　そして仲間を探していたらいきなり発砲された。
　これには雪原、涙目である。
「もう！　こうなったらヤケだよ！　変身すれば信じてくれるよね？」
　彼女はエナジーバッジを手に取ると、元気良く呪文を唱えた！

「マジカル・フォーム・チェーンジ！」

　掛け声の直後、彼女の衣服が一気に消失してすっぽんぽんに！
　そして全身が光に覆われ、すぐに裸体が隠された！
　この魔法少女世界の理の１つ『キ・セイコー（規制光）』だ！
　そして頭上から順にパーツが装着していき、くるっとターン！
「（えっと、私の名前は雪原 真白だから……、うん！）私は魔法少女スノウホワイトだもん！　よろしくね♪」
　ビスチェと超ミニスカと縞々ニーソな姿の魔法少女スノウホワイトがナース牡丹の前に登場！
「同じ光の魔法少女でしたか～、うっかりうっかり★」
　牡丹、言葉と裏腹に全然悪びれない態度である。
　だが、雪原はその言葉を微塵も勘繰ろうとはしなかった。
「本当だよー！　同士討ちは避けないとね！　それにしても……」
　彼女は自分の衣装が気になる様子。
「フリルを至る所にあしらったゴスロリ風で可愛いけど……、露出度が高すぎるような？　っていうか、あれ……？」
　雪原は一番大事なことに気が付いた。
「私、今、履いてない！！」
　顔を赤らめて急にモジモジし出す雪原。
　短すぎるスカートの裾を抑えてオロオロし出す。
　そんな彼女にナース牡丹は笑顔で豪語した！
「私も履いてないです～！　むしろいざという時は葉っぱ１枚で充分だぞ★」
「ま、魔法少女ってそういうものなんだね！　パンツ履いてないけど恥ずかしくないもん！」
　雪原の勘違いは、この世界にいる間は気付くことはないだろう。
　ちなみにナース牡丹のパンツは、雪原を仲間に取り込むために魔力で消し飛ばした。
　ノーパンになってまで、ナース牡丹は己の目的を果たすために協力者を必要としていたからだ。
　そこへ、バットを担ぎ上げた覆面スケバン（時代錯誤なセーラー服にくるぶしまであるロングスカート）が現れた！

「あんたらも光の魔法少女かい？」
「そういうあなたはだぁれ？」
　スノウホワイトが首を傾げると、スケバン少女……桜崎 巴は叫んだ！
「いつもどおりバットを担いで登校していた、たぶん光の魔法少女さ！」

「ラジカル☆ともりんレボリューション！」

　呪文と共に彼女の全身が真っ赤なリボンに包まれた！
　リボンが解けると粉塵マスクに安全ヘルメットで素顔は完全に覆われ、持っていたバットはゲバルト棒と呼ばれる丈夫な角材に変形だ！
「腐った世界を叩き直す！　魔法少女ラジカル☆ともりん、今、見参！」
　完全に学生運動（安保闘争、全共闘運動・大学紛争など参照）じゃないですかー！！
「悪の魔力を感じて駆け付けてみれば、なるほどねぇ。愛憎のオーラってわけかい？　ドス黒いったらありゃしないよ」
　やれやれ、と肩をすくめるともりん。
「あの！　もしよかったら、魔王をぶっ殺しませんかぁ～？　こんな世界、とっとと壊しちゃいましょ、アハハッ★」
　病んだ目付きでともりんに物騒な相談を持ちかけるナース牡丹。
　スノウホワイトは「え？」と目を丸くして驚いている。
「今回の『体制派』は闇側だからね、あたしの得物『エスタブリッシュメント・ベイン（体制派殺し）ゲバ棒＋たくさん（Ｄ＆Ｄ的な意味で）』がよく効くはずさ。あんたが邪魔さえしなければ、あたしは喜んで魔王をぶちのめそうかね」
「ありがとうございます～！　ふふっ……」
　ニタリとナース牡丹は微笑むと、ともりんもニィ……と口角を釣り上げる。
　ともりんは考えていた。
（この世界をあたしの意のままに作り変えちまえば、善も悪も関係ないのさ！　あたしの理想社会――厳密にはいろいろ構想はあるが、今回は世界のせいで変な具合に歪んで共産主義的な何かってことで――の実現のために、２人とも手駒になってもらうよ？）
　ナース牡丹とともりんがお互いを利用しようと腹の中を探り合う中、純真に雪原は声を張り上げた。
「うん！　テオから聞いた未来石を探して、魔王をやっつけようね！」
　雪原、まるで狐と狸の間に入った野ネズミ状態である。