【大魔王と闇の魔法少女たち】

　魔法少女世界の寝子島のどこか、闇に紛れて黒酢をぐい呑みするイケメンがほくそ笑む。
　この世界の元凶にして支配者、大魔王ルシフェル666世その人である。
　彼のろっこんは世界に取り込んだ者を闇の魔法少女として自分の意のままにマインドコントロールすることができる。
　だが、全ての人間を支配下におけるわけでもなかった。
　目の前には大玉スイカぐらいの水晶玉。そこに代わる代わる映るのは、光の魔法少女、この世界に反旗を翻す者たちの姿だ。
「この僕を倒そうというのか、無駄なことを……！」
　黒酢を１本飲み干すと、空き瓶を投げ捨てて両手を叩いた。
「メイドウルフ、おかわりだ」
「はい、ルシフェル様♪」
　メイド服を着た小柄な戌井 創こと惨殺魔法メイドのウルフが黒酢の瓶を抱えて小走りでやってきた。
　上目遣いでモジモジと顔を赤らめるウルフの表情は、まるで恋する乙女のようだ。
　それを恭しくルシフェルと呼ばれたイケメンが受け取ると、栓を抜いて直に口を付けた。
「やっぱり黒酢は鹿児島の福山産に限る……！」
　ゲフゥと酸っぱいゲップをウルフは吹き掛けられても、嫌がらずにむしろ恍惚の表情を浮かべている。
「大魔王ルシフェル666世様は本当に黒酢がお好きねぇ？」

　右肩に寄り添ってくるのは常闇 虚こと深淵魔法少女アビスだ。
　すかさず大魔王のセクハラの魔手が胸元に伸びるが、アビスはただ微笑んで更に身体を密着させる。
「２人ともずるいわー！　あんまりイチャつくとぶっぱなすでー♪」

　ドス黒い笑みを浮かべつつ、西野町 かなえこと夕闇の魔法少女トウフーンは首から下げた豆腐屋笛を握り締める。
　そんな嫉妬に駆られるトウフーンに、大魔王は爽やかに微笑んだ。
「こらこら、ヤキモチ焼かずにこっち来いよ、かなえ？」
　すると名前で呼ばれたことがよほど嬉しいのか、彼女は目を輝かせながら大魔王の胸に飛び込んだ。
「好きぃ♪　ボス、めっちゃ好きやねん！」
「はっはっは！　かなえは甘えん坊さんだなぁ！」
　よしよしとその頭を優しく撫でる大魔王に、トウフーンの両目にハートマークが浮かび上がる。
「うちも混ぜておくれやす？」

　トウフーンとは違う、関西訛り。京言葉が特徴的な弥逢 遊琳こと背徳の魔法少女コトカが蠱惑的な笑みを浮かべて大魔王の左肩に身体を預けた。
「もう、私も寂しいのに？　どうして愛してくれないの？」

　滝原 レオンこと黒き魔法少女Noir（ノワール）も膨れっ面で割り込んできた。
「おいおい、コトカもノワールもか？　まったく、どいつもこいつも僕がいないと駄目なんだからなぁ！　はっはっはっはっは！」
　両手に花どころか酒池肉林。
　この世界に取り込まれた際に、男子は性転換してしまい美少女と化していたのが災いしたのだろう。
　彼女たちは大魔王のセクハラ攻撃に進んで被害を受けている酷い状況を愉しんでいる。
　そこへ市橋 誉こと大魔王の側近ブラックメロディ率いる闇の魔法少女たちが帰還してきた。

「偵察終了ッと！　光の魔法少女はすばしっこいぜ、ったくよぉ！」
　悪態を付きながら一番最初に姿を現したのは、後木 真央こと病毒少女（♂）ベノムちゃんだ。
　男の娘なベノムちゃんの格好はかなり際どい。よくイラスト化できたなと逆に感心してしまうレベルの衣装である。
「ウホッ、ベノムちゃんの衣装はいつ見てもグッとくるなぁ、うぇっへっへっへ！」
　大魔王、男の娘もイケるクチらしい。限界ギリギリの露出狂衣装に彼は垂涎を抑えられない。
　ベノムちゃんはサディスティックな表情を浮かべつつ、敢えて挑発するように衣装の下の素肌を見せ付ける。
「もー、ルシフェル様はエロいッスなー？　でも、もっとオレの事を見ていいんッスよ？　なんなら、２人きりで……♪」
『ベノムちゃん、いい加減にして？』
　そこへＲＰＧにありがちな台詞ウィンドウが虚空に出現した。
　声が出せない小山内 海――鮮血少女プリズマ★スカーレットが、魔力によって会話を可視化させているのだ。
　彼女は変身を解くと、ベノムちゃんの肩に手を置いた。

『ルシフェル様を独占なんて、駄目』
『それ以上やると、ベノムちゃん……、死ぬよ？』
　スカーレットがおもむろにウルフを指差す。
　指差されたウルフはというと、瞳のハイライトを消した目でブツブツ呟いていた。
「僕も男の娘なのに、なんでルシフェル様は構ってくれないの？　誰よりもルシフェル様に親身になってお仕えしているのに、僕は要らない子なの……？」
　どうやらウルフは男のまま魔法少女になってしまったようだ。
　そしてヤンデレ化してやがる。ベノムちゃんの顔が引きつった。
「ははは……、オレ、休憩行ってくるッスー」
　ベノムちゃんはそそくさと空間転移魔法で退散していった。
「全く、あの子は騒がしいわね……」

　詠坂 紫蓮も変身を解くと、大魔王の前に跪いてみせた。
「ルシフェル様、あなたには感謝しているわ。嗚呼、この湧き上がる気持ち……！　心が！　闇で！　満たされる！　私、目覚めた気がするの、ふふ……」
　跪いてはいるが、その表情は先程のベノムちゃん以上のサド顔である。
　詠坂はこの世界に転送された際に大魔王のろっこんに取り込まれ、自身の内側に眠るドＳな部分を抑えられなくなってしまった。
　そんな彼女が闇落ちすれば、陵辱系魔法少女サディスティック☆プリンセス（通称ドＳ姫）と名乗るのも自明の理といえよう。
「それは君が持っていた才能の１つだ。僕はただ、気付かせてあげただけだよ。だから後で僕を踏ん付けてください！」
　大魔王はキリッと凛々しい表情で懇願した。
「あらやだ？　踏まれて悦ぶなんて、卑しい腐れ豚魔王ね？　何処を踏まれたいのか言っていなさいよ？」
　嬉々としてドＳ姫は片足を上げる。ミニスカートなのでパンチラ不可避なのだが一向に気にしない。
　むしろ大魔王がそれを狙ってわざと土下座をしてくると、「何勝手に見てるのよ？」と大魔王の顔を容赦なく踏み付けた。
　大魔王は恍惚の笑みを浮かべている！
　ドＳ姫は無邪気に笑っている！
「大魔王様、お楽しみの最中ですが報告です」

　ブラックメロディが目の前の光景を平常運転だと言わんばかりに、事務的な口調で偵察結果を述べ上げる。
「大魔王様の傘下に入らない光の魔法少女は20名を残すばかりとなりました。他の魔法少女は全て、我々が排除致しました故……」
「流石だな、ブラックメロディ！　お前を幹部に取り立てて正解だった」
　大魔王は顔面のみならず、あんな所やそんな所までグリグリ踏まれながらメロディを褒め称えた。
「お褒めの言葉、勿体無い限りです。ご命令あらば、今すぐにでも掃討戦を開始いたしますが？」
「ルシフェル様……、私にも指示を……」

　北条 冬華こと黒き氷雪少女キオネがブラックメロディの影からすっ……と姿を現す。
　元々ひとである北条が魔法少女世界に巻き込まれ、取り込まれた結果、自我は失われて本来の性格とはかけ離れた、冷淡な人格になっていた。
　彼女は抑揚のない口調で言葉を繰り返す。
「早く指示を……。光の魔法少女を……、早く、この手で凍てつかせてやりたい……！」
　殺気から全員から迸るキオネ。闇の魔法少女陣営の中でも１、２を争うほどの血の気が多いようだ。
　踏み付けというご褒美タイムを終えた大魔王は、ブラックメロディとキオネの間に立つ。
　そしてごく自然に両人のたわわな乳房を左右それぞれの掌で包んだ。
　ナチュラルなセクハラに２人とも「ふぅ……」と息を漏らす。
「まぁ、そう急くな２人とも。今は英気を養ってくれ。君たちには期待しているんだからね？」
「「ゃん……♪　大魔王様ぁ♪」」
　メロメロの２人に嫉妬して、他の闇の魔法少女たちも大魔王様とのスキンシップ（という名のセクハラ）を求めて殺到！
　もみくちゃにされる大魔王は、ニヤけながら心の中で固く誓う。
（現実なんてクソだ！　ここにいれば死ぬまで僕はモテモテじゃないか！　光の魔法少女たちも闇落させたいなぁ！！）
　大魔王ルシフェル666世は、この世界でハーレムを築こうとしていた……。