スイーツフェアに行こう｜リアクション

スイーツフェアに行こう

【本命ってどこの国の言葉だろう】

　御剣刀が席についたテーブルの上は、たいへんなことになっていた。
「このパンケーキ、メープルパウダーがかかっていて、バターが香るな！」
　牛乳を飲みながら、刀がパンケーキを褒めた。
「こっちのカステラも、底にザラメがびっしりだ！　ザラメの歯ごたえがとてもいい」
　そして再び牛乳をひとくち。
「この胡麻団子、餡子がたっぷりだ！　独特の餡と胡麻の風味がマッチしていてうまい」
　牛乳をぐっと飲み干す。
「……御剣さん、すごい」
　あっけにとられる緋紅朱赫乃の隣で、浅山小淋はペンをはしらせた。
『こういうときの御剣さんは、輝いてますね。食べ過ぎてお腹をこわさないようにしてくださいよ？』
「何を言ってるんだ、二人とも。ここからが本番だぞ」
　コーヒーを手元にたぐりよせて、刀は生チョコを頬ばった。
「うん、口の中でさらっと溶けて広がる香りがすごい、うまいな！」
　そして羊羹にはやはり緑茶だ。
「洋菓子のさりげない甘さもいいな」
「和菓子おいしいよね～！　見て、苺大福の苺、大粒だよ～っ」
　千鳥雅人もテーブルに並ぶ和菓子にうっとりとしながら食べていく。
「ほうじ茶も良い茶葉使ってるみたい。ほっとするよ～」
「ああ、和菓子にはお茶だな」
「だよねぇ、あっ、この水饅頭すごくおいしいよ、ぷるぷるしてる！」
　和菓子用の楊枝ですくった水饅頭を、雅人は皆に差し出した。
「ほら、食べて食べて～♪」
「え……あの、私……」
　赫乃は恥ずかしがって身を引いたが、刀はお菓子の誘惑に勝てなかった。
　ためらう素振りもなく手ずから水饅頭を食べさせてもらい、満足げにうなずいた。
「おおー！　これはいいな！」
「でしょ～♪」
　そんな様子をにこやかに眺めながら、小淋はタルトタタンに林檎のゼリー、アップルパイを食べていた。
「あ、そうだ、俺アップルパイも食べようと思ってたんだ～。小淋ちゃんのおばあちゃんの林檎！」
　和菓子を食べ終えた雅人が、アップルパイに手を伸ばす。
「ん～っ♪　どれもこれもおいしくて幸せだよ～……！」
　目を閉じてうっとりとする雅人の髪が、ハートの形にくるりと丸まった。
　刀も紅茶と一緒にアップルパイを頬ばって、うなった。
「パイのさくっとした歯ごたえと、林檎のコンビネーションがすばらしい！」
「とてもおいしい、ですね」
　ひかえめに、赫乃も微笑んだ。

　テーブルの上もだいぶ片付いてきたところで、ミルクチョコレートのケーキを食べていた赫乃が、刀に問いかけた。
「ところ、で、御剣さん、は、付き合って、いるの？」
「緋紅朱？　え、誰と？」
「御剣さん、が、誰かと……。ほら、よく一緒にお友達といる、から」
　その中の誰かと付き合っているのではないかと常々感じていた赫乃の予想は、すぐに本人の口で否定された。
「俺が誰かと？　いやいや、ないない！　仲の良い奴は多いかもしれないけどな、あり得ないって」
「そう、なの？　私、御剣さんを、好きな、女の子の気持ちに、答えてあげて、ほしいな……って……」
　片想いの気持ちをよく知る赫乃の願いだ。同じ年頃の女の子の気持ちは、なるべく報われてほしいと思う。
　けれど刀は赫乃の言葉を聞き流した。
「俺を好きな女の子？　いないぞ、そんなの。俺は怒られてばかりだからな。ないだろうなー」
　鈍感っぷりを発揮する刀に寄せられる周囲の視線は、物言いたげなものばかりだ。
『恋愛面に関しては何とも言えませんけど、よく周囲をごらんになってみてはいかがでしょう……？』
「え、部長それってどういう……」
「ねえ、刀くん、父さんが言ってたよ。『皆まとめて幸せに出来る甲斐性があるなら、二股でも三股でもしていいんじゃない？』って」
　真面目な顔をして、励ますように雅人が言った。
「刀くんなら大丈夫だと思うよ、うん！　きっと、おそらく、大丈夫だよっ」
「千鳥まで！？　急にどうしたんだ皆して！」
「でも父さん、こうも言ってたなぁ。『僕は甲斐性無しだから、嫁さんしか愛せないけどね』って。世の中の大半は甲斐性無しなんだろうねぇ……」
「いや……、俺も、甲斐性があるとは思えないんだが……」
　とまどう刀の肩を、雅人が優しくたたく。
「うん、そうだよねぇ。お菓子はどれもおいしいもんね、選べなくたって仕方がないよねぇ～」
「うん、あれ？　お菓子の話、だったか？」
『おいしい、ですよね……』
「目移り、しちゃう、の？」
　刀は視線をさまよわせて、パンプキンプディングをぱくりと食べた。

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