スイーツフェアに行こう｜リアクション

スイーツフェアに行こう

【レモンも、林檎も、ミックスも】

「はー……、やっと休憩できる。お前らあっちこっち行き過ぎだって」
　お菓子を山盛り持った桐野正也が、フードコーナーの椅子に腰を下ろした。
「林檎めちゃくちゃいっぱいあったなー！　よーし、食うか！」
「いただきまーす。んっ、『Ｒａｔｏｎ』のプチタルト、めちゃうまー！」
「どれどれ……、おーっ、プリンとろけるー！　すげー！」
　さっそくお菓子を手に取り、六月一日宮檸檬と工藤耀が喜びの声を上げた。
　正也もチョコレートケーキを口に運び、「くー！」と、うなる。
「やっぱ甘い物って、疲れてるときはいいよなー！」
「桐野センパイ、疲れすぎですよー。仕方ないから、俺のレアチーズケーキわけてあげましょー。レモン乗っててうまいから。はい、あーん」
　フォークですくったケーキを口元に差し出されて、正也は焦った。
「って、おい！　六月一日宮なにしてんだよ、しねーって！」
「桐野先輩、食べさせてほしーんスか－？　じゃあ俺もね、はい、このプリンうまいっスよ、せーんぱい」
「工藤まで！　お前らふざけんなって、んがっ」
　文句を言う正也の口に、プリンが無理矢理突っ込まれた。
「おまっ……！」
「先輩、おいしー？」
「ひどいなー、センパイ、俺のは食べてくれないんですかー？　かなしーなー」
「えー、ひどーい。桐野先輩、檸檬がかわいそうっスよー！」
「む、ぐ……っ、お前ら……！」
　顔をしかめる正也を、耀と檸檬が囲む。
「ハイ、センパイ、レアチーズケーキ、あーんして」
「あっ、このアップルパイもめちゃくちゃうめー！　先輩にもおすそわけ！」
「いやいや、だからしねーってば！　お前らふざけすぎ……って、おいこら！」
　せーの！　で、今度はアップルパイとチーズケーキの両方が正也の口に突撃してきた。
「んぐっ、……んだこれ、複雑な味……っ」
「桐野センパイ、両方食べるなんて贅沢ですねー。うまいからいっぺんに食べたくなりますよねー！」
　もぐもぐごっくん。しっかりと飲み込んでから、正也は口を開いた。
「あー、もー、お前らほんと……！　顔にもいろいろついちまったじゃねーか」
「しょーがねーなー、桐野先輩は。俺、拭いてあげよっか？」
「いらん！」
　正也をいじって笑う耀を、檸檬が呼んだ。
「工藤、こっち向いて」
「ん？　うわっ」
　振り向いた耀の口に、檸檬はレモンゼリーを放り込んだ。
「工藤の口が淋しそうだったからなー！」
「レモン味じゃねーか！　あーっ、バカヤロ、油断した！」
「レモンの良さを思い知れ！」
「おーい、お前ら－。ちょっとは落ち着いて食べろよな！」
「ケーキ前にして落ち着くのは無理でーす。……あ、フィナンシェいい味」
「俺もー、ムリっスわー。お、この饅頭もうまいなー」

「ケーキといえば、そういや雑誌の撮影、面白かったよなー」
　抹茶とチョコのミルフィーユを食べながら、正也が言った。
「あぁいう服って普段着ないし、チョコケーキもうまかったなー」
「俺も！　あのアップルパイ、我慢できなくて食べちゃったんだよな」
　檸檬もうなずく。
「あんなふうに撮ってもらったの初めてだったけど、楽しかったな。ポーズとったりして」
「あー、あれなー。ポーズなんてピースしとけばいいのかって思ってたな、俺」
　喋りながら、耀はこっそり足をさすって、つぶやいた。
「ずっと同じポーズをキープして、頑張ったな……、俺」
「そうだ、六月一日宮！」
　思い出したように、正也が檸檬につめよった。
「お前あのとき、俺のサスペンダーをパッチンしたよなぁ？」
「ああ、そういやいい音しましたよね！」
「あれけっこう痛いんだぞ、しかもなぜか皆で隙あらばと狙ってくるし！」
「楽しかったっスね！　桐野先輩、隙ありっ！」
　耀が指をもぞもぞ動かしながら、正也の胸元に手を伸ばした。
「え？　今日は……って、ねーよ！　びびったじゃねーか、サスペンダーしてねぇよ！」
「空気読んでしてきてくださいよ、センパイ－！」
「そっスよ、もーっ。先輩ったらホント先輩なんスからー」
「なんだよお前ら、意味わかんねぇよ！」

「ん？　あ、志波発見－！」
「おっ、宇佐見も一緒じゃねぇか。おーい！」
　ケーキをふんだんに抱えた志波拓郎と宇佐見望月に気がついて、三人は手を振った。
「こっちこっち！　一緒しよーぜ！」
「皆……も、来てた、のか……」
「正也ちゃん、うまそうなの食ってんじゃん」
　拓郎と望月が、テーブルにケーキを置いて同席した。
「欲張ったな、ケーキ山盛りじゃねぇか。いい店あったか？」
「おう、これ、二周目なんだぞ」
「まじか！」
　正也が目を剥く横で、檸檬が拓郎に話しかけた。
「ちょうど今、このあいだの撮影の話してたんだ。インタビューとか新鮮だったよなー」
「うん……、たしかに、な……」
「志波のそれ、ムース？　俺のタルトタタンと一口交換しよーぜ」
「俺も俺も！　レモンタルトあげるから、な！」
　人数が増して、いっそうテーブルがにぎやかになった。

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