【ほくほくの味わい】

　フードコーナーに移動して、なぎさとマキナはテーブルにお菓子を並べた。
「お菓子は見ているだけで幸せな気持ちになりますね。もちろん食べてこそなんだろうけど……」
　数々のスイーツを前にして、なぎさが瞳を輝かせる。
「こっちのお団子も優しい色で素敵だし、タルトもボリュームがあっておいしそう！」
「うん、そうだね」
「あ……」
　なぎさがはっとして、マキナを見つめた。
「ご、ごめんなさい、はしゃいでしまって。つい楽しくって……」
　浮かれてしまったと謝るなぎさに、マキナが微笑みかける。
「そんなことないよ。おいしそうなんだから、無理ないって」
　なぎさがほっと肩の力を抜く。
「よかった。ボク、甘い物が好きなものだから、つい」
「テンション上がるよね、よし食べよう」
「はい。ええと、ボクはアップルパイから」
「いいな、ぼくもそれから食べよう」
　アップルパイはホールで買ったし、パンケーキはとても大きい。
「いただきます」
　ひとくちフォークでとって、なぎさがアップルパイを口に運ぶ。
「ん、おいしい……ですね、神野、さん！？」
　なぎさがひとくち食べる間に、マキナは一切れ丸ごと食べてしまった。
「うん、おいしい！」
　目を丸くするなぎさの前で、マキナは次々にアップルパイを食べていく。
「よし、パンケーキを食べよう。音海君もどんどん食べなよ」
「あ……、はい……」
　大きなパンケーキには、生クリームを増量してもらってある。
　本体が見えないほどのクリームの山は、迫力があった。
　これもぱくっとマキナは口に運んでいく。
「おいしいよ！」
　出遅れたなぎさも、自分のぶんを食べてみた。
「わぁ……、クリームもパンケーキも溶けていくみたいですね」
「うんうん、別の味のやつも買えばよかった。あ、もう一周すればいいか」
　前向きなマキナの意見に、たまらずなぎさは笑いだした。
「なんだか幸せですね。神野さんと一緒でよかったなぁ、ずっと食べていたい気分」
「そうだね、それじゃあ次は和菓子を食べよう」
　寝子饅頭も、ゆべしも、パンプキンケーキも、タルトも、クッキーも、そしてもちろんモンブランも、二人は笑顔のままたいらげていった。





【年頃の彼らの悩み】

　宇佐見 望月は、購入したマカロンを味わいながら、商品名と感想を熱心にメモしていた。
（フルーツの香りがいいな）
「……このマカロンは、甘さひかえめか」
（あの子は、はっきりした味のほうが好きかな？）
「宇佐見先輩……、何、してるんですか……？」
　望月のメモを、志波 拓郎がのぞきこむ。
「うわっ、いや拓郎ちゃん、何でもねぇよ！　何でも……ない」

　その拓郎も、かりんとうをかじりながら、後で多めに買って帰ろうと考えていた。
（これ……、あの子と学校で一緒に食べたいな。おいしいって言ってくれる、かな）
　頭の中に、とある彼女の喜ぶ声を思い浮かべて、なにやらじわりと幸せな心地にひたる。
「あのさ、拓郎ちゃん……。ちょーっと話、聞いてくれねぇか？」
「……何ですか？　もちろん……です」
「ちょっと……、おにゃのこ関係で、気になることがあるんだ」
「はい……って、うぇ！？」
　唐突な望月の発言に、拓郎は動揺のあまり、かりんとうをばらまいてしまいそうになった。
「は……って、えぇっと……！　先輩……っ、う、あ、その……、ですね！」
「ん？　どうした拓郎ちゃん、そんなに慌てて」
「いやっ……、そうだ。と、とりあえず……、フードコーナーで落ち着いて話しましょう」
「お、おう、場所変えるか」
「ケ、ケーキ……と、飲み物も買って、行きましょう、か……」
　望月と拓郎は、次に寄ろうとしていたケーキ屋で、ケーキとジュースを購入した。
「グレープフルーツジュースあるっすか？　じゃあそれと、ケーキはこのザッハトルテで」
　落ち着いて注文する望月とは異なり、拓郎は目に見えて動揺していた。
「このケーキに、フレッシュジュース……を……」
「ジュースに酸味がありますから、こちらのタルトのほうがお飲み物との相性がよいかもしれません」
「えっ……、と、じゃあそっちにします。ください……」
　自分が何を注文しているのかも把握しきれず、店員のおすすめセットを購入する。

　席につくと、さっそく望月は話し始めた。
「最近よくあることなんだけどな、甘い物食ってるときに、とある子の顔が思い浮かぶんだ」
　拓郎はケーキを頬ばりながら、耳を傾ける。
「拓郎ちゃん、どう思う？　……これって、何か変かな」
「変じゃない、です、うん……」
　おかしいどころか、拓郎にも身に覚えのあることだ。
「でも、先輩……。どうして、自分に、そんなことを……？」
「ああいや、とある人から、拓郎ちゃんが何か一皮むけたかも、って話を聞いてさ」
　拓郎の口元がへの字に曲がる。
「……って、それって絶対、馬鹿兄貴のこと、です、よね！」
「ん、まあ？　んーと、そんでだ。そんな『人生の先輩』なら、何かわかるかもと思ってな！」
　拓郎の頬が、ほんのりと赤らんだ。
「……宇佐見先輩、それ、自分にとって大切な存在……、一緒にいたい人、なんじゃないんですか……？」
「い、一緒にいたい存在！？　……一緒に？」
　望月は考え込んだ。
「んー、確かに、あの子が俺に差し入れくれたりとか、俺の作ったモノを味見してくれたときとか、すっげ嬉しかった覚えあるけど……」
　小声でぶつぶつ言いながら、望月は頭を抱えた。
「それが、一緒にいたいってことなのか……？　大切……？」
（先輩、そんなに何度もくり返さなくてもいいです……！）
　望月の言葉が、ブーメランのように我が身に突き刺さってくる。
　拓郎はいたたまれなさに真っ赤になって、席を立った。
「……口直しのデザート、先輩のぶんも、買ってきます！」