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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
【三寮祭】ばっひゅーんシャッフル☆ナイト
●星ヶ丘寮～シンデレラパーティ・その１０
「これが、自分？」
羽生 碧南は姿見に映した自分の姿に絶句した。
星ヶ丘寮はいつ来てもすごい。猫鳴館もたいがい凄いところだと思うけれど、あそこはまだ人が集まってごちゃごちゃしながら出来ることをやったらこうなりました感がある。一方で星ヶ丘寮は人の世を超えているユートピアのような景色がある。こうしてこの世に存在しているのだから、ここも誰かが力の合わせて創ったのだろうけれど……碧南が普段暮らす桜花寮の庶民感とは違う。違いすぎる。
そして今、碧南は自身の思いがけない姿にも戸惑っていた。
纏っているのは緋牡丹色の中世ヨーロッパ風のお姫様然としたドレスであった。くびれたウェストからのプリンセスラインが美しく、裾や袖は豪奢なレースが縫い付けてある。
180cmという長身の碧南はいつも衣装には泣かされる。今日も衣装室に誘われたときは、ドレスなんて似合わないよ、あと15センチは背が低ければ似合ったんだろうけど……なんてちょっとスネた気分だったのだが。
「私にぴったりの合ったドレスが簡単に見つかっちゃうなんて」
唱華がまとめたタブレット上のカタログのおかげである。
髪をセットし、金のティアラを載せると、少し大人びた立派なお姫様の誕生である。
パーティの会場は噴水広場。
あたりには同じように着飾った男女が溢れている。
軽食を摘まみ、碧南はしばし見る専門で過ごしていた。
（こういう会場では脳内妄想がサクサク進むな～）
碧南は自他ともに認める乙女ゲーマーである。あっちの彼は前にプレイした異世界乙女ゲーのツンデレ王子に似てる、とか。こちらの彼はその前にプレイした学園モノの眼鏡生徒会長が学園祭のときにコスプレして主人公をダンスに誘ったときっぽい、とか。
「はっ……」
我に返る。妄想の世界にトリップしてほわ～っと口元がだらしなくなっていた気がする。
「挙動不審に見られなかったかな」
そう思いつつ周囲を見渡すと、そこに特徴的なわかめヘアーの若者がいた。
「鷹取先輩……」
彼の名は鷹取洋二。ひとつ年上の先輩で、去年まで学校で会えていたのだが卒業してからは会える機会がぐっと減っていた。碧南は彼が好きだった。校内において、乙女ゲームに出てくる攻略キャラたちのように煌めいた存在では決してなかったはずだ。なのにいつの間にか目で追っていた。ゲームの中でなら彼から告白してくるシチュエーションもこちらから告白するシチュエーションも何度も経験しているのに、現実で、となると二の足を踏んだ。
（けっきょく、卒業までに告白できなくて……だけど……）
最後に会ったのは花見の時だ。あのときの洋二の様子はどこかおかしかった。
洋二はまだこちらに気づいていない。
碧南は少し逡巡したが、意を決して彼の背後から声を掛けてみた。
「鷹取先輩。こんにちは、奇遇ですね」
「おや……君は」
洋二は一瞬誰だろうというように碧南のことを見た。
そうか、化粧をしているし髪型も違うから、わからないんだ。
「羽生です。碧南」
「そうか、美しすぎて気づかなかった。君も来ていたんだ。素敵だね」
相変らず普段通り。
「先輩は大学生になられたんですか？」
「そうだよ。晴れて木天蓼大学芸術学部の学生というわけさ。学費と生活費のためにバイト三昧だよ。猫鳴館暮らしが長かったから貧乏は苦にならないけどね」
飄々とした笑顔は変わりない……はずなのに、目元にあの時のアンニュイさが僅かに滲んだ気がする。
「先輩。よかったら……」
碧南は彼をダンスに誘ってみた。
断られるかと思ったが洋二は勿論と受けてくれた。
曲はメロウなワルツだった。ふたりとも、語る言葉を持たなかった。曲に身を任せ１曲ほど踊ったあと、碧南は唐突に洋二を見据え、その口唇に自分のそれを重ねた。
歯と歯ががちりとぶつかった。
キスと言えるかどうかわからないほどほんの一瞬のことだった。
「……」
彼は悲しい瞳をしていた。
「先輩……いきなりでごめんなさい」
好きです、そう続けたかった。けれど碧南の言葉を遮るように洋二は視線を落とし、小さく零した。
「僕こそ、ごめん」
短い謝罪の言葉を残して彼は足早に立ち去ってしまう。
この出来事は碧南には訳が分からなかったし、悲しかったが、後日彼から手紙が来た。メールでも、電話でもなく、手書きの手紙が。
そこには未だに古風な考え方をする実家のこと、親に木天蓼大学芸術学部を受ける条件として年上の女性との婚約を迫られたこと、結果的に親の言うことを呑むことができず絶縁同然の状況にあること、女性に想いを寄せられても今は簡単に受け入れられないことが誠実に綴られていた。
『きっと君を傷つけてしまうから』と。
「これが、自分？」
羽生 碧南は姿見に映した自分の姿に絶句した。
星ヶ丘寮はいつ来てもすごい。猫鳴館もたいがい凄いところだと思うけれど、あそこはまだ人が集まってごちゃごちゃしながら出来ることをやったらこうなりました感がある。一方で星ヶ丘寮は人の世を超えているユートピアのような景色がある。こうしてこの世に存在しているのだから、ここも誰かが力の合わせて創ったのだろうけれど……碧南が普段暮らす桜花寮の庶民感とは違う。違いすぎる。
そして今、碧南は自身の思いがけない姿にも戸惑っていた。
纏っているのは緋牡丹色の中世ヨーロッパ風のお姫様然としたドレスであった。くびれたウェストからのプリンセスラインが美しく、裾や袖は豪奢なレースが縫い付けてある。
180cmという長身の碧南はいつも衣装には泣かされる。今日も衣装室に誘われたときは、ドレスなんて似合わないよ、あと15センチは背が低ければ似合ったんだろうけど……なんてちょっとスネた気分だったのだが。
「私にぴったりの合ったドレスが簡単に見つかっちゃうなんて」
唱華がまとめたタブレット上のカタログのおかげである。
髪をセットし、金のティアラを載せると、少し大人びた立派なお姫様の誕生である。
パーティの会場は噴水広場。
あたりには同じように着飾った男女が溢れている。
軽食を摘まみ、碧南はしばし見る専門で過ごしていた。
（こういう会場では脳内妄想がサクサク進むな～）
碧南は自他ともに認める乙女ゲーマーである。あっちの彼は前にプレイした異世界乙女ゲーのツンデレ王子に似てる、とか。こちらの彼はその前にプレイした学園モノの眼鏡生徒会長が学園祭のときにコスプレして主人公をダンスに誘ったときっぽい、とか。
「はっ……」
我に返る。妄想の世界にトリップしてほわ～っと口元がだらしなくなっていた気がする。
「挙動不審に見られなかったかな」
そう思いつつ周囲を見渡すと、そこに特徴的なわかめヘアーの若者がいた。
「鷹取先輩……」
彼の名は鷹取洋二。ひとつ年上の先輩で、去年まで学校で会えていたのだが卒業してからは会える機会がぐっと減っていた。碧南は彼が好きだった。校内において、乙女ゲームに出てくる攻略キャラたちのように煌めいた存在では決してなかったはずだ。なのにいつの間にか目で追っていた。ゲームの中でなら彼から告白してくるシチュエーションもこちらから告白するシチュエーションも何度も経験しているのに、現実で、となると二の足を踏んだ。
（けっきょく、卒業までに告白できなくて……だけど……）
最後に会ったのは花見の時だ。あのときの洋二の様子はどこかおかしかった。
洋二はまだこちらに気づいていない。
碧南は少し逡巡したが、意を決して彼の背後から声を掛けてみた。
「鷹取先輩。こんにちは、奇遇ですね」
「おや……君は」
洋二は一瞬誰だろうというように碧南のことを見た。
そうか、化粧をしているし髪型も違うから、わからないんだ。
「羽生です。碧南」
「そうか、美しすぎて気づかなかった。君も来ていたんだ。素敵だね」
相変らず普段通り。
「先輩は大学生になられたんですか？」
「そうだよ。晴れて木天蓼大学芸術学部の学生というわけさ。学費と生活費のためにバイト三昧だよ。猫鳴館暮らしが長かったから貧乏は苦にならないけどね」
飄々とした笑顔は変わりない……はずなのに、目元にあの時のアンニュイさが僅かに滲んだ気がする。
「先輩。よかったら……」
碧南は彼をダンスに誘ってみた。
断られるかと思ったが洋二は勿論と受けてくれた。
曲はメロウなワルツだった。ふたりとも、語る言葉を持たなかった。曲に身を任せ１曲ほど踊ったあと、碧南は唐突に洋二を見据え、その口唇に自分のそれを重ねた。
歯と歯ががちりとぶつかった。
キスと言えるかどうかわからないほどほんの一瞬のことだった。
「……」
彼は悲しい瞳をしていた。
「先輩……いきなりでごめんなさい」
好きです、そう続けたかった。けれど碧南の言葉を遮るように洋二は視線を落とし、小さく零した。
「僕こそ、ごめん」
短い謝罪の言葉を残して彼は足早に立ち去ってしまう。
この出来事は碧南には訳が分からなかったし、悲しかったが、後日彼から手紙が来た。メールでも、電話でもなく、手書きの手紙が。
そこには未だに古風な考え方をする実家のこと、親に木天蓼大学芸術学部を受ける条件として年上の女性との婚約を迫られたこと、結果的に親の言うことを呑むことができず絶縁同然の状況にあること、女性に想いを寄せられても今は簡単に受け入れられないことが誠実に綴られていた。
『きっと君を傷つけてしまうから』と。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2021年05月29日
- 参加申し込みの期限
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- 2021年06月05日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2021年06月05日 11時00分
