【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　すぐ横へそれそうな集中力をなんとかかんとか引っ張って戻して、どうにか碧南は夕方までのバスケットボール部の練習を終えることができた。
　シャワーを浴びて体育館を出るともうすっかり夕方だ。
　ファミレスに行きませんかと柚乃たちが誘ってくれたが、「今日はごめん」と断って歩き出す。
　今年はお花見どころじゃなかったな。
　なんとなく寮にまっすぐ帰る気が起きず、碧南は桜川へ寄り道した。
　夕暮れの朱い空が川面に映っている。
　たくさんの桜の花びらが、朱い川を流れていた。
　まるでそのBGMであるかのように、穏やかな音楽も空間を満たしている。
　あっ、と声が出た。
　川べりに立ってヴァイオリンを奏でている姿が、まちがいなく鷹取洋二だったからだ。
　洋二もすぐに気づいて、
「やあ、羽生くんじゃないか」
　はっはっはと笑った。
　いつも通り屈託のない笑みだけど、どことなく寂しそうに見えるのは、先日のことがあったせいだろうか。
「部活はいま終わったのかい？　お疲れ様」
　ええどうも、と短く返事して碧南は訊く。
「鷹取先輩は、なにをしてらっしゃるんですか？」
「僕？　ちょっとアンニュイな気分にひたっているだけさ」
　また妙なことを言うものだが、いつもの謎発言ではないことを碧南は知っている。
　鷹取先輩にとっては、この光景もじき見納めかもしれないからだよね――。
　駆け寄るようにして碧南は川べりまで下りる。
「あの……っ、先輩」
「どうしたんだい。走ったら危ないよ」
「ど、どうも……いえ、そうじゃなくて、ですね」
　よかったら、と碧南は言う。
「一緒に少し、お花見しませんか。川辺を歩いて」
　うん、いいねと洋二は返事した。