【三寮祭】ばっひゅーんシャッフル☆ナイト｜リアクション

【三寮祭】ばっひゅーんシャッフル☆ナイト

●星ヶ丘寮～シンデレラパーティ・その１２

「あ、０時の鐘……もうお開きになりましたか」

　鳴り響く鐘の音に、愛猫萌々子は一夜のパートナーの万条幸次のほうを名残惜しく見る。
　彼女の何気ない仕草や香りにドキドキしっぱなしであった幸次のほうは、内心、救われた、とほっとしたが、それを萌々子に悟られたらせっかくの彼女と過ごした時間に水を差してしまいそうで口ごもっていた。
「ご一緒してくれてありがとうございました」
　彼女が先にそう言ってくれたのに乗じて、幸次も今日の想いを短い言葉に込める。
「あの、ありがとう……楽しかった」
　顔が熱くなる。
（もう、だめ……！）
　もっと何か言えれば良かったのかもしれないけれど、もう心臓が限界だった。
　踵を返し、ダッシュで去らずにはいられなかったほどに。
　萌々子は目を丸くし、それからくすっと笑ってしまった。
「……先輩、走って帰ってしまいました。ふふっ、まるでシンデレラが逆になったみたいですね」
　舞華のアナウンスで、思わずガラスの靴が落ちていないか探してしまう。
　靴は落ちていなかったけれど、かわりに彼の照れた笑顔が萌々子の胸には残っていた。
　萌々子はゆっくりと歩き出した。
「私も久しぶりに星ヶ丘寮で一泊しましょう」

　その頃、王子の衣装を着替えて星ヶ丘寮を出た幸次は、遠くに輝くお城のような寮を振り返ってみた。
「いまだに心臓がうるさいのは、最後の最後に手を離したくないと思ったのは、なんで……」

◇

　八神修と七夜あおいの魔法の時間も０時の鐘でおしまいだ。
　鐘の音の鳴りやまぬ間に、修はあおいにガラスの靴を差し出す。
「この靴がぴったりあう貴女こそ、俺が探していた女性です」
　あおいは彼の隙のない演出にふたたび驚いてしまった。
「私には大げさな気がするけれど……これも修くんらしさかな。シンデレラ気分をありがとう」
　魔法は終わったけど夜はまだ少しある。
「帰ろうか。猫達が待ってる」

◇
　
　ドレスを脱いで、フツウの生徒に戻って、星ヶ丘寮の空き家のひとつでゆっくり過ごした夏朝と夏夜の様子を、ここでしばし語っておこう。

「今日は楽しかったね……夏夜ちゃんと、ハルくんと、パーティだなんて、本当に夢みたいだったよ」

　ふかふかのベットをソファ代わりに、たくさんのクッションに埋もれるようにして夏朝は目を閉じ今宵のことを思い返す。揃いのドレスを着ることができたのが嬉しかった。いっしょに踊れたことも嬉しかった。噴水広場にいた人たちが、それぞれに楽しいって顔をしていたのも嬉しかった。

「夏朝。まだ寝るには早いよ」

「寝てないよ」
「そう？　ホットミルク、淹れたけど飲む？」
「うん。飲む」
　夏朝はクッションの中から起き出して、ダイニングテーブルで夏夜とふたりホットミルクであったまる。
　それからまた、ゆっくりおしゃべり。
「そうだ、金平糖とクッキー貰ったね」
「うん。星型のかわいいやつだね。夜だけど、今日くらいいいよね。食べちゃおうか」
　お土産にもらったお菓子をおつまみに、ふたりはのんびり朝までの時を過ごし――。

　翌朝。
「楽しかったね……」
　眠い目をこすりながら夏朝と夏夜は帰途につく。
　夏朝は桜花寮へ。
　夏夜は猫鳴館へ。
　行き先は違うが、想いは同じだ。
「桜花寮はどうだったかな。あっちも賑わってたらいいな」
「きっと楽しく過ごしたよ。猫鳴館も、きっとね」
「帰ったら話を聞いてみよう」
「そうだね」
　ふたりは同時に振り返る。
　星ヶ丘寮の白亜の街並みが朝日にキラキラと輝いている。
「星ヶ丘寮の皆、本当にありがとう。楽しかったよ……それじゃ、また！」
「それじゃ、また……寝子高で」

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