【三寮祭】ばっひゅーんシャッフル☆ナイト｜リアクション

【三寮祭】ばっひゅーんシャッフル☆ナイト

シンデレラのための夜に

●星ヶ丘寮～シンデレラパーティ・その９

　月夜であった。
　夜の庭園は幻想的にライトアップされ、まるで空の銀河を地上へ写し取ったかのようだ。
　白いタキシードを纏った八神修とシンデレラ風のドレスを纏った七夜あおいが踊っている。
　ダンスフロアから漏れ聞こえるワルツのリズム。
　音楽は風に乗って庭園の薔薇たちにも届いている。

◇

　――すこし時を巻き戻そう。
　此度の三寮祭が決まった時点で、星ヶ丘寮に暮らす八神修は、七夜あおいに相談を持ち掛けていた。
　『準備からがイベント』というのが修の持論だ。
　星ヶ丘寮に来る？
　ドレスはどうする？
　自分で持っていなくても大丈夫。
　衣装室にいろいろなドレスがあるからきっと好みのものが見つかるよ。
　そうだ、月の髪飾りを贈るよ。シンデレラパーティのとき付けて来てくれるかい――。

　そうしていよいよ当日。
　貸衣装ではなく自前のタキシードで参加した修は、ドレスを纏ったあおいの変身ぶりに息を呑んだ。
「似合ってる」
「本当？」
「お世辞じゃないよ。俺は、君に嘘を吐かないって知ってるだろ？」
「ん、そうだね。ありがとう」
「俺はどうかな、お姫様？」
「素敵だよ。でもわたしは修君にびっくりしないよ。そういう恰好似合うって知ってるもの」
「え？　……はは、そうか。参ったな。たしかにこういう格好も、今日みたいなフォーマルな場も、慣れた世界でしっくり馴染むよ」
「ふふっ。修君らしいなあ。謙遜しないところが本物だなあって思っちゃうんだよね」
　あおいの悪戯っぽい上目遣いが魅力的で、修は優雅に彼女の前に跪いて申し込んだ。
「今夜はあおいに魔法をかけるよ。……俺と踊っていただけますか、シンデレラ？」
「はい、喜んで」
　修が彼女をいざなったのは、噴水広場ではなくその奥の庭園。
　気軽な話をしながら、楽しめるように自然に導くことを忘れない。
「うわあ……綺麗……」
　星々のように煌めくライトアップにあおいは目を輝かせる。
「君とふたりの時間を楽しみたくて、手配しておいたんだ」
　そういうと修は噴水の傍であおいの手を取った。
「もう少し近づくね」
「う、うん」
　あおいは照れてはいるが嫌がってはいない。修が腰に手を回すと、あおいも幾度か踊って覚えたのか、そっと修の肩に手をかける。
「ダンス、きっと修君みたいに出来ないよ、私」
「気にしないで。ステップなんて知らなくて大丈夫。音楽に合わせるだけでいいんだ」
　ふたりは風に乗って届くワルツに合わせて１曲踊り、それから並んで座って休憩した。
　用意されていたドリンクはカットオレンジとミントを添えたカシスオレンジ。
「お酒っぽい……」
「大丈夫、ノンアルだよ」
　そう、酔わないと分かっているけれど。悪戯めいたドキドキを感じる。
「今日くらいすこし大人な雰囲気を味わってもいいだろう？」

　すこしだけ口をつけひと息つくと、次の曲が始まった。
　もう一曲、と修が正式な作法で誘って、ふたりはふたたび庭園のフロアに踏み出す。
　先ほどよりもメロウな曲調。
　自然と互いの距離が近づく。
　修がそっと合図をすると、庭園のライトアップが、踊っている一角のランプひとつを残して消えた。
　するとあたりはランプ仄かな２人だけの空間に変わった。
「もう……修君って本当に準備万端なんだから」
「今更だよ。知ってるだろう？」
　修が贈った月の髪飾りはお揃いで、明かりが消えた途端に月明かりにキラキラと輝いてみえた。

「空には月。髪にも月。嗚呼……月が綺麗だね」