ループ１３｜リアクション

ループ１３

　コンコースで神野美野梨は立ち尽くす。呆然としている訳ではなく、目は冷静に周囲の様子を窺う。
「そうね」
　諦めたかのように儚く笑うと歩き出した。一直線に向かうと少し躊躇う素振りを見せた。
　軽く拳を固めて声を掛ける。
「突然、すみません。その動画を見せて貰えませんか？」
「俺に言ってる？」
　笹川帆太は動画のチェックをやめて逆に聞いてきた。
「はい、ダメですか？」
「そんなことないって。全然、オッケーだ。俺の自由奔放なカメラワークを堪能して欲しいじゃん」
　上機嫌で機材を渡した。受け取った美野梨は動画を再生する。被写体を決めず、コンコース全体が撮影されていた。
　早送りのあと、少し戻って止めた。電線に止まった雀を目で数える。
「これが」
　また早送り。目にした女性に顔を近づける。手元をよく見て少し考え込んで顔を上げた。
「助かりました」
「俺の動画が何かの参考になったみたいだな」
　にこやかな帆太に美野梨は機材を返す。軽く頭を下げると、一瞬で光景が変わった。
「また戻ったようね」
　美野梨は足を速めた。キッチンカーの近くにいた妙齢の女性に目を凝らす。胸元に落ちたアイスクリームをハンカチで拭いている。
　――ハンドタオルではないわ。でも、どうすれば。
　一瞬の決断で美野梨は別の方向に走り出す。電線の近くで立ち止まって見上げた。
　――電線にいた雀は、最初、四羽だった。あの左手にいる一羽は、実に興味深いわ。
　不要な力を抜いた。真剣な目となって五羽目の雀に向かって小声でチュンと鳴いた。『友との語らい』のろっこんが発動。進化能力1の効果で鳥類全般との念話が可能となった。
　――あなたは誰？
　対象の雀は答えない。微動だにしないで電線にいた。
　美野梨は諦めず、念話を続けた。
　――本来、いなかった五羽目のあなたは誰、答えて。
　核心を突いた言葉に対象の雀が激しく震えた。周囲の大気が割れて白い光が漏れ出し、一瞬で粉々に割れた。
　溢れた白い光に美野梨は呑まれた。
「これは？」
　光が薄れるとコンコースが現れた。賑やかな人々の声が聞こえる。
　美野梨は電線を見上げた。雀は四羽、仲良く並んでいる。
「そう、そういうことなのね」
　柔らかい表情でキッチンカーに向かう。二種類のサンドイッチを購入してボストンバッグに収めた。
　その後、周囲を気にすることはなく、寝子島シーサイドタウン駅へと入っていった。