ループ１３｜リアクション

ループ１３

　電信柱の側で水守流はソフトクリームを食べていた。
「……どうすりゃいいんだ」
　眠そうな目で周囲を眺めた。
　幼い二人が笑顔で走り回る。男の子が鬼の役となり、逃げる女の子を追い掛ける。人々の間をギリギリで駆け抜けた。
「楽しそうだな」
　目で追っているとピンクのスーツの女性に気付いた。ハンカチを落としたようで身を屈める。タイトなスカートが僅かに上がった。
「関係ねぇな」
　素っ気なく言うと別のところに目を向けた。
　道端にコーヒーの缶が置かれていた。陽光を受けて銀色の輝きを放つ。
「……あったのか？」
　訝し気な目で見た。アイスクリームの溶け落ちそうな部分を慌てて舐め取る。限界に近い為、回すようにしてコーンを齧り、残りを口の中に押し込んだ。
　間もなく新しいアイスクリームを手にした。
「このループはなぁ」
　気分を新たにして食べ始める。その口が止まった。
　――待てよ。俺の記憶が残っているってことはだな。完璧に時間が戻っているわけじゃないってことにならないか？
　眠そうな目が、やや開いた。大口を開けてアイスクリームに齧り付く。唇の横に付いたものは親指の腹で拭き取った。
「ゲームの間違い探しと同じだな」
　挑戦的な笑みが浮かぶ。

　二回のループを経て流はささやかな異変に気が付いた。妙齢の女性が胸元にアイスクリームを零し、ハンカチを押し付ける。
「前はハンドタオルだった」
　一歩を踏み出したものの、歩き出せない。
　――あのハンカチが怪しい。だが、どうする？　強引に奪うとマズイだろ。触ろうとすれば痴漢扱いで人生終了のお知らせが。
　寝癖の付いた頭を掻き毟る。その反動でアイスクリームを落としそうになり、慌ててバランスを取った。
「危なかったぜ……ん、そうか！」
　思い付いた瞬間、流は飛び出した。妙齢の女性の近くで派手にアイスクリームを落とした。
　黒いシャツに白い塊がべったりと付いた。
「うわー、やっちまった！　ビンテージのシャツがあああ！」
　両腕で頭を抱え、大げさに仰け反った。すると妙齢の女性が声を掛けてきた。
「わたしのハンカチでよければ」
「ありがとうございます！」
　流は差し出されたハンカチを握った。その手から白い光が溢れ、瞬く間に呑み込んだ。
　数秒で視界が戻った。
「クリアしたのはいいが」
　黒いシャツにはアイスクリームの跡がくっきりと残っていた。

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