ドキドキ！　わくわく？　悪魔の身体測定☆｜リアクション

ドキドキ！　わくわく？　悪魔の身体測定☆

　まず予定されているのは、一年生から三年生男子の身体測定。
「一組男子から身体測定、終わり次第順次視力検診に向かってください」
　測定会場の外の廊下に並ぶ体操服姿の男子たちを一瞥し、莉鳥は冷徹な声で指示を放つ。
「そこ、列から離れないで」
　女子に対するときよりも厳しめの声かけになってしまうのは、胸のわだかまりのせいだろうか。
「はーい、それじゃあ順番にお願いしますー」
　上級生女子の厳しい態度に硬くなる一年男子たちに向け、寝太郎が柔らかな声を掛けて室内に誘導する。莉鳥に叱られてしょんぼりした態度で、それでもなんとか列から抜け出そうとする小柄な男子の背をぱたぱた叩いて向かわせるのは、まずは胸囲測定の場。
「あの、」
「ん？」
　なんだか妙にもじもじする男子に、寝太郎は首を傾げる。同性同士なのに、何を恥ずかしがることがあるのだろう。
「腕上げてー。ぱぱっと測っちゃうよー」
　巻き尺をジャッと引っ張り、おどおどもじもじする男子の胸囲を慣れた手つきで測る。
(見た目より胸板厚いな～)
　九十センチ近い数値を測定用紙に書き込む。細い男子の身体つきなのに、これでは胸元の豊満な女子──
(いや女子の胸囲なんて知らないけども！)
　熱を帯びてしまうそうになる頬をごしごし擦って次の男子の胸囲を測ろうとしたとき、さっきの男子が体重計の前でまたもや足を止めている姿が目に留まった。

「どうしたの？」
「あの、わたし、……いや、ぼく、……」
「後の人が待ってるから、体重計に乗ってくれると嬉しいな～」
　必死の抵抗を示す下級生の男子を気弱な笑みと優しい言葉で体重計に乗せる。
「この服一キロあるんですっ」
「元から服の分は引いて設定してるからねー」
　なぜだか体重をマイナスしてほしい旨を主張する男子に容赦なく五百グラムもまからない正確な数値を用紙に記入して差し出す。
「い、いじわる！」
「ええー……」
　男子が女子のように肩を怒らせて吐き捨て、しょんぼり肩を落としながらも大人しく身長計に向かうのをそれでもきちんと見届けたとき、
「オレは男だ！」
　入口の方で大きな声がした。なにごとかと見れば、スレンダーな体型のそのくせ大きな胸を無防備に揺らした女子が会場に侵入しようとしている。
「わっ、ちょっ、ちょっと、」
「通せったら！」
　止めようとする他の保健委員たちに羽交い絞めにされながらも会場に押し入って来る女子の前、寝太郎は必死の顔で立ち塞がった。目前に迫る胸と怒れる女の子の形相にタジタジとなりながらも、
「女子の測定は、男子の後だから！」
　保健委員業務を遂行する。待機場所へ帰るように促す。
「嫌だー！　女子と一緒に測定なんてー！」
　喚く女子が保健委員たちに引きずられる格好で会場の外へ出されたかと思えば、
「首を落とせバ、五キロ減るヨ」
　寝太郎に五百グラムもまからない体重を測定用紙に記載されて落ち込む男子に物騒な言葉で絡む女子制服姿の兎頭。
(人間の頭って大体五キログラムくらいなのか～)
　本当かどうかも分からない謎知識を思わず素直に受け取ってしまってから、はたと気づく。女子のような男子に男子だと主張する女子に続いて、今度は兎頭の女子。次から次へと起こるトラブルに、頭を抱えたくなる。
「あの、女子の測定は──」
　言いかける寝太郎を無視して、兎頭は身長計の前に立った。測ってくれないのかと首を傾げる。
「えーっと……」
　眺め渡して見れば、会場に残っているのはいつのまにか兎頭と保健委員だけ。素早い測定のためにはこの子と揉めている時間も惜しい。
「覆面を取ってくれないと、正確に測れないかなぁ」
　困った笑顔を向けると、兎覆面の女子は兎耳を揺らして首を傾げた。その首が、ぽとりと落ちる。
「っ……？！」
　息を呑み目を瞠る寝太郎の視界の中、兎頭は床に落ちた自分の頭をひょいと拾い上げた。うふふ、と小さな笑い声を残し、煙のようにその場から消え去る。
「え、……ええー……」
　今年の身体測定も、なんだかんだで波乱含みの始まりなのかもしれなかった。