晩ごはんはお粥にした。
朝ごはんはコップ一杯の水にしてきた。
お腹空いたなあといつもの通学路を眺める。花壇の赤いチューリップだってオレンジのマリーゴールドだってなんだか美味しそうに見えて困る。
(がんばれ!)
ぐう、と鳴るお腹を押さえて道の向こうに見え始めた寝子島高校を睨む。
(身体測定さえ乗り切ってしまえば……!)
学食でお腹いっぱいごはんを食べよう。カロリーを気にしていつもは我慢している唐揚げ定食を食べちゃおう。デザートにプリンだってつけちゃおう。
制服に包まれたお腹にぐっと力を籠めて引っ込めてみる。高校生になっても平坦なまんまの胸に視線を落としてみる。
思わず小さな息が零れた。しょんぼり落とした肩のまま、登校途中の生徒で賑わう正門へと目を向けて、
「……?」
正門の脇に出来た人だかりに気が付いた。ざわめく生徒の群れに興味を惹かれて近づいてみれば、
「おっきいおっぱいも! ちっさなおっぱいも! どちらも尊い!」
人だかりの真ん中、拡声器を片手に叫ぶ白衣の女の人が仁王立ちしていた。
「背の高い男の子も! そうでもない男の子も! どちらもカワイイ!」
春風になびく銀色の髪、使命感に燃える緋色の瞳、すらりとした体躯にバランスの良い大きさの胸と引き締まった腰を包むは白い開襟シャツにタイトスカート。白衣をばさりと翻すさまに、野次馬じみた生徒たちから拍手と歓声があがる。
「体重がなによ! 胸囲がなによ! 健康で元気であれば何の問題もないのよー!」
叫んで喚いてちょっと咽る女の人の背を、どこからともなく現れた兎の覆面に寝子島高校の女子制服を纏った女の子が擦った。
「ありがと、ウサギちゃん」
白い耳がぱたぱた揺れる。真っ赤な眼が身体測定を控えた生徒たちをギョロリと見遣る。
顔を上げたウサギちゃんは、妙にリアルで怖い兎の覆面の下でくすくす笑った。
「首を落トせバ、五キロ減るヨ」
「そうね、肩凝りも改善するかも! ……って、やめてくださ──」
白衣の女が制止の声を上げるより先、ウサギちゃんは躊躇いのない動きで踏み出した。どよめく野次馬の中に分け入った次の瞬間には、片手に女子、片手に男子の首根っこを軽々と引っ捕らえている。じたばた暴れる男子の額に容赦のない頭突きをかまして黙らせ、ギラリと真っ赤な瞳を輝かせ、──刹那、ウサギちゃんとウサギちゃんに掴まったふたりは姿を消した。
「あー。えーと。まあ大丈夫、頑張ってウサギちゃん倒すか正門を潜れば戻って来れるから!」
暖かな春風に冷や汗をかきかき、白衣の女は殊更に明るい声を張る。
「それはともかく身体測定! どんな体型の子もみんなカワイイけれど、ええもうとってもカワイイけれど! それはそれとしてアコガレの身体があるのも分かる! ──ということで本日はこんなものをご用意してみました!」
女がひらりと手を閃かせば、その背後に手品のように黒い鉄の門が現れた。
「門の向こうは不思議の国! 執事の出すお茶を飲めばアラ不思議、君の思い描くままの『理想の』身体になれるかも?! その身体で今日の身体測定を乗り切っちゃえー!」
悪魔の微笑みを浮かべ、白衣の女はオイデオイデと手招きをする。
「門が開いてるのは朝のうちだけ、身体測定前の今だけ! さあ、少年少女たち、急げー!」
正門の方がなんだか騒がしい。
廊下を渡って一年生の教室へと向かいながら、
鳴海 透璃は小さく首を傾げた。
開け放った窓から流れ込んで来た春風が、さらりと黒髪を揺らして過ぎる。
──なんだろ?
──行ってみる?
少し前を歩いていた同学年の女子たちが顔を見合わせ、楽しそうに正門へと向かう。その背中をそっと見送って、透璃は長い睫毛の陰を白い頬に落とした。
桜の咲く頃に寝子島高校に入学して、桜の花が散る頃になっても、一緒に行動できるような仲の良い友達は出来ていない。
──行ってみようか
そうやって、誰かに声を掛けられたら。そうしてその誰かが笑顔で頷いてくれたら。そう思いながら、春の廊下を歩く。
(僕も行ってみようか)
友達を作るのは苦手だけれど、人の集まるところに向かえばナニカに出会えるかもしれない。
それとも、この後の身体測定に備えてやっぱり大人しく教室に入ろうか。
こんにちは。今回は、身体測定なシナリオをお届けに上がりました!
昨年一昨年と寝子高の春の身体測定はさまざまな混乱の坩堝でしたが、はてさて今年は……?! なお話です。
もちろん、フツウの身体測定もしっかり行われるので、フツウに学校生活を楽しまれるのもオッケーです!
鳴海 透璃さん、ガイドへのご登場ありがとうございました!
もしご参加頂けますときは、ガイドに関わらずどうぞご自由にアクションをお書きください。
シナリオの概要
いくつか、選択肢をご用意いたしました。
あなたの行動に近い選択肢を一つか二つ選んで、【キャラクターの行動】にお書きください。
ほしびと・一般の方のご参加も可能ですが、校内に入り込む場合は手段や理由をお教えください。
白衣の女の『お茶会』に紛れ込んだり、ウサギちゃんの世界に引きずり込まれたりな場合は、『偶然通りがかった』とかで大丈夫です。
【1】フツウの身体測定☆
【身長】【体重】【胸囲】【聴力】【視力】を測ります。
保健委員さんは測定のお手伝いを、風紀委員さんは必要に応じて風紀の取り締まりをお願いします。
【場所】保健室
【担当】鷲尾 礼美先生
【測定順番】1・2・3年生男子 → 1・2・3年生女子
※【身長】【体重】【胸囲】【聴力】【視力】について記入があれば、測定結果をリアクション内で公開します。
【2】『理想』の身体になっちゃおう☆
黒い門を潜れば、そこは薔薇と百合に囲まれたお茶会の場。
白いクロスが広げられた大きな大きなテーブルの上には、色んなお菓子や茶器が置かれています。どうやら自由に飲み食いしてもいいようです。
のんびりまったり過ごすのもいいかもしれません。白衣の女(悪魔)もやりとげた顔で片隅の席に座っています。
テーブルの傍には黒い燕尾服を着た陰気な執事(悪魔)が控えています。彼の淹れるお茶を飲むと、あら不思議☆
→性転換しちゃった☆
→理想の体型に大変身☆
→なんかわかんないけど体型変わったー?!
どちらかを選ぶのも、両方選ぶのもオッケーです。いっそ阿瀬にお任せくださいましても。
身体が変化した後は、お茶会の場でみんなで過ごしても、意気揚々と身体測定に向かっても。
ただ、見た目は変わっても、実測の数字は変わりません。体重も身長も胸囲も、数字は元のままです。
【3】首狩りウサギちゃんと遊ぼう☆
兎覆面の女の子『ウサギちゃん』(悪魔)に引きずられたり、引きずられて行った誰かを追いかけたりして飛び出した空間は寝子島高校のようで寝子島高校ではない何処か。
妙に昏い雰囲気の寝子島学校です。
飛び出す場所はグラウンドでも部室棟でも校舎内でも、お好きにどうぞ。
学内には斧やナイフや鉈を持った『ウサギちゃん』が複数うろついています。飛んだり跳ねたりトリッキーな動きをしながら、あなたの首を落とそうと襲って来ます。
立ち向かって倒すのもひとつの手です。家庭科室や調理室に行けば、武器になりそうなものも見つかるかも?
逃げて逃げまくるのも手のひとつ。正門から出れば、元の世界に戻ることが出来ます。幸いなことに(?)、校内の造りは寝子高と変わらないようです。
このシナリオの登場可能NPC
◆寝子高教師陣
アクションがあれば登場します。
◆その他NPC
他のマスターが担当していない登録NPCやXキャラ、阿瀬が担当している登録・未登録NPCであれば、登場が可能です。
ただし、その場にいても不自然ではない場合に限ります。
◆Xキャラ
Xキャラクターをご希望の場合は、口調やPCさんとの関係性などのキャラクター設定をアクションに書き込んでください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、URLを書いて頂けましたら参照させていただきます。
Xキャラクターの登場も、その場にいても不自然ではない場合に限ります。
コメディもシリアスもアクションもほのぼのもその他も、のつもりのガイドですが、いかがでしょう……?
とにかくっ、それでは! みなさまのご参加をお待ちしておりますー!