ドキドキ！　わくわく？　悪魔の身体測定☆｜リアクション

ドキドキ！　わくわく？　悪魔の身体測定☆

　さっき廊下ですれ違ったグラマラスな女子が食堂のテーブルいっぱいに食べ物を並べている。唐揚げ定食にきつねうどん、焼きそばパンにプリン、
(食券の上から順番……？)
　旺盛過ぎる食欲に目を瞠りながら、碧南は手にしたトレイを別のテーブルに置いた。
「野菜炒め定食ですか、先輩」
　出入口のところで出会ったバスケ部の後輩、二年生の浅見柚乃が月見うどんの乗ったトレイを手に前の席に着く。ふたり揃っていただきますと手を合わせた後の話題はもちろん、互いの身体測定の結果。
「来月は木天蓼女学院との練習試合ですよね」
「うん」
「先輩のライバルなあの人は」
「……いや、お互いにライバルって柄でもないからね？」
　お昼時にざわつく食堂でご飯を食べながら話し込んでいるうち、
「こんにちは、先輩方」
　同じくバスケ部の一年生、霧生愛が同じテーブルについた。
「先輩方は身体測定どうでした？」
「どうって」
「身長、伸びてました？」
　どこかしら挑戦的に目を輝かせる愛に、今回然程身長が伸びていなかった柚乃がムッと顔をしかめた。
「……別に霧生が気にすることでもないと思うけど」
「そうでしょうか」
「ほらほら、喧嘩しないの」
　ムムムと睨み合うふたりに、碧南はぱたぱたと軽く手を振る。

「愛ちゃん」
「何ですか、羽生先輩」
「ムキになってるときの顔、とてもかわいいよ」
　ふわふわと笑ってみせれば、愛はなんだか難しい顔をして黙り込んだ。俯いた顔がみるみるうちに赤くなるのを眺めつつ、碧南はちらりと思う。
(今の台詞)
　いつかにプレイした乙女ゲーの誰の台詞だったっけ？

「愛ちゃん」
「だからもう先輩、愛ちゃんはやめてくださいってば」
　食堂から出てきた少女たちが楽しそうにじゃれあいながら歩いてゆく。
　下級生と上級生の微笑ましい姿をなんとなく目で追いながら、時子は小さく首を傾げた。お昼時にまず気になるのは、自分のお昼ごはんのことではなく、五十嵐尚輝先生のこと。
(きちんと食べておられるでしょうか)
　朝いちばんにお弁当を届けてはいるけれど、先生はすぐに実験に夢中になって食事を忘れてしまう。
(理科室、……行ってみましょうか)
　保健委員としての仕事にはひと段落ついている。鷲尾先生からも、休憩はきちんととるように言い含められている。
(先生方も健康診断があると去年伺いましたが)
　尚輝先生は今年はきちんと受けたのだろうか。
　去年のことを思い出す。去年の尚輝先生は、鷲尾先生から呼び出し状を食らっても健康診断を受けていなかった。
(ひとしきり健康の大事さと病気の早期発見の大切さを説きましたが……)
　心配になって、理科室に向かう足取りが早くなる。昼休憩の校舎を過ぎ、先生がほとんど住んでいると言っても過言ではない理科準備室を覗いてみれば、
「こんにちは」
　先生はちょうど、時子が朝届けたお弁当を平らげた後だった。
「コーヒー、飲んでいきませんか」
「私が淹れますね」
　実験器具の並ぶシンクでお弁当箱を洗いながら誘われ、時子はこくりと頷く。
　サイフォンの前に立ってコーヒー粉を用意しながら、時子は隣の尚輝先生を見仰ぐ。こうして並んでみると、頭ひとつ分以上に差がある。
(もう少し身長差が縮まって欲しいですけど……)
　背は伸びて欲しいけれど、胸はもうあまり成長しない方が嬉しい。だって着物を着こなすには今の胸でも大きいくらいだ。
　尚輝先生が何か呟いた。
　──いい匂いですね
　ぼそぼそと喋る癖のある先生の声を聞き取ろう聞き取ろうとしているうちに、聴力は良くなっているような気がして、時子は頬を緩める。

(尚輝先生の声、しっかり聞こえます)
　コーヒーの香りに満ちてゆく理科準備室の中で、時子は好意を寄せる先生の横顔を見つめる。髪はぼさぼさ、きっと何か月も、下手をすれば何年も美容室には行っていない先生は、前髪だって伸びっぱなし。
(視力が気になりますね)
　眼鏡やコンタクトをつけているところは見たことがないため、悪くはないはずだけれど、
(ちょっと心配です)
　ちらりと思った途端、先生がこちらを見た。まっすぐに見つめられ、思わずぱちぱちと瞬きを繰り返す。
(心配いらなさそう、でしょうか)

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：阿瀬春
ファンレターはマスターページから！

　大変お待たせいたしました。身体測定、お届けに上がりました。

　普通の身体測定に、不思議なお茶会に、首狩り兎。どれも寝子島の『フツウ』かなと思うのです。歓迎されないものも、まあそれはそれということで。少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです。

　ご参加くださいまして、お読みくださいましてありがとうございました。

↑ページトップに戻る