【星幽塔】第一階層　冒険は自給自足で｜リアクション

【星幽塔】第一階層　冒険は自給自足で

「コカトリス――それにグリフォン！」
「先客万来ってやつかな」

　強敵の出現に、むしろ意気揚々と、ルイセは弓を擬する。

　洞窟の奥から姿を現したのは、爬虫類の体に禽の翼を持つ魔獣コカトリス。さらに、鷲の頭と翼に獅子の体のグリフォン。
　甲高い声を上げて、しきりに此方を威嚇してくる。

「わりと厄介かな」
　夏朝の言葉に、皆がうなずく。
　コカトリスそのものは非力なモンスターだ。体力があるわけでもなく、所詮鳥の一種に過ぎない。力でこちらが打ち負かされるようなことはまずない。
　だが、コカトリスは蛇の尾に毒を持つ。不用意に近づけば毒液を散布され、動きを束縛される。
　さらにその嘴には石化の力がある。ある種の強力な力のように、ひとにらみで全身が硬直ということはないにせよ、執拗な攻撃にさらされれば皮膚が徐々に硬直し、生きながらにして石膏像が完成してしまうだろう。ぞっとしない。
　対処さえ間違えなければ、それほど強力な相手ではないが、油断して痛い目をみることは十分にありうる。

　さらにコカトリスをしたがえているグリフォンは、空の雄とも称される強力な魔物だ。
　こちらは変わった攻撃手段は持たないものの、空中からのかぎ爪と嘴は、中途半端な戦士くらいなら跡形もなく吹っ飛ばす強力なものだ。
　グリフォンの相手にかまけて、コカトリスの奇襲により戦線を崩されるというのが、最も望ましくない形だ。

　即座に判断。
　夏朝と夏夜はコカトリス。その間、ルイセは単独でグリフォンをけん制。
　ティオレの回復を待ち、コカトリスの迅速な撃退ののち、グリフォンの粉砕。
　
　無言のうちに連携を確認し、四人はそれぞれの持ち場につく。

　戦端が開かれた。

（迅速に――）
　戦輪を取り出し、夏朝は夏夜を見る。
　非力な女子二人組と見たコカトリス、高々とホバリングする。
　ナイフを構える夏夜。
　甲高く鳴き声を発し、蛇身の鶏は急降下を開始する。
　
　その瞬間、夏朝は戦輪を投擲。
　回転のきいた銀盤は流麗なカーブを描いて、過たずコカトリスに直撃。
　すると、コカトリスが急に翼をすぼめたかと思うと、落下を開始する。
　戦輪に仕掛けたワイヤーが、魔物の全身をからめとったのだ。

　躊躇なく夏夜は跳躍。
　手にしたナイフを構え、コカトリスの喉めがけて一閃。
　銀の軌跡が走り、魔の鳥はあっけなく絶命した。

（うまく言った……）
　これといった感興もなく、夏朝はコカトリスを見下ろす。
　血の匂いがむっと立ち上った。
　あまり好きではない。先ほどの草を潰し、香気を立ち上らせてごまかす。
　そのまま夏朝が手にした刃物で後始末をする。
　因果を含めてさっと血抜き。
「痛めつけると、味が落ちる気がする……！」
　すでに夏朝は、調理のことを考えている。

　修羅場を多くくぐってきた夏朝にとって、この程度の魔獣の対処は苦しむことはない。
　それに加えて、夏夜のナイフ捌きの見事さ。
　到底、素人のものとは思えない。夏夜の、夏朝の足を引っ張りたくないという強い意志の表れだ。