【星幽塔】第一階層　冒険は自給自足で｜リアクション

【星幽塔】第一階層　冒険は自給自足で

「どーん！」
　元気いっぱいの声とともに、白真白がハンマーを遺跡の床に打ちつける。
　激しい振動が遺跡内を震わせて、ばらばらと大量のスライムが落下した。
　大半のスライムはショックで戦意を喪失しているが、それでも中には元気に真白を狙うものもいる。
　勢いよくジャンプして、真白に飛びかかるそれらをーー。

「いくぜっ！」

　身をかがめて突撃するのはアシュリー・アンダーソン。
　右手に星の力を宿すと、飛来してくるスライムを正面からアッパーカット。
　小柄ながらに鍛え込まれた肉体は無駄がない。スライムにも的確に打撃を与えていく。
　本来スライムには、打撃はあまり有効な手段ではない。
　ぶよぶよと体は、あらゆる衝撃を吸収してしまうのだ。
　それでも力自慢のアシュリーは、拳のラッシュでねじ伏せてしまう。

　力仕事は得意。考えるのは好きじゃない。
　何でも明確で、単純なのが好み。
　生まれ育った英国の、おおらかでこだわりのない性格がしっかり受け継がれていた。

　ここ星幽塔においても、彼女は迷うことはない。
「右腕がなんか強そうな気がする」
　星の力を右手に宿してみると、思いのほか感触がよい。
　殴りがいがありそうだ。
「空飛んだりする奴らじゃなければ、殴って倒せるんじゃね？」
　アシュリーの直感は過たず、飛んでくるスライムさえも彼女の攻撃の標的。
「それっ！」
　気合いと共に打ち込んだ正中拳により、巨大なスライムはその体を震わせ、動かなくなった。

　巧みなアシュリーの立ち回りを、笑顔で応援する真白。
　今回の戦術は、単純明快。
　魔星の力で植物を操り、敵を絡め取り、獲物のハンマーで撃破。
　遺跡の内部は植物があるのかどうか、という疑問はあったが、実際に来てみると、苔や地衣類が豊富に繁茂しており、地面が露出しているところには植物の群生まであった。
　足止めは十分可能。
　今回の真白のターゲットは、なにをさておいてもスライムだ。
　
　スライムの群体がいるとおぼしき地点で、ハンマーの石突きをどんと衝く。
　むらがりよってくるスライムを、植物の力で足止め。
　直接攻撃や衝撃破で無力化していく。
　たまに襲ってくる強力なスライムは、戦い慣れしたアシュリーが相手をしてくれた。

　ゲームやカプセルギアなどでは、高度で入り組んだ戦術を見せる真白。
　だが今回戦闘は、本来の目的ではない。
　やるべき物事に、力は温存しておきたい。

　星の力で下半身を強化。ハンマーを扱う彼女、実は弱点の下半身に負荷がかかってしまう。
　アシュリーがかたっぱしから無力化していくスライムを、ほいほいっとバケツに放り込む。
　これらは貴重な材料だ。

＊　＊　　＊

　食料の持ち込めない遺跡。
　あらゆる食料が砂と化していく様をまのあたりにして、幾多の冒険者は探索を諦めてきた。
　補給をおろそかにして自滅してしまった冒険者の数は、枚挙にいとまがない。
　地下の奥深くで飢餓と渇きにとらわれてしまうのは、どのような魔物に襲われるよりも恐ろしいことだ。
　ルーキーであるルーク・ポーラスター、歴戦の古強者であるフォルカ・ヴィクスンにしても、手を出しあぐねる恐怖の遺跡である。
　こたびの寝子島の朋友たちの、救援の手は彼らにとって望外の喜びであった。
　幾多の星幽塔の窮地をすくってきた彼ら。
　知謀においても、勇猛においても、ほしびとの彼らが学ぶべき点は多い。

　あらゆる生命の根源である「摂食行動」を軛あたえる迷宮。
　彼らがいかなる策略で望むのか。
　
　だが――。
　荷物一式を目の当たりにしたとき、ルークとフォルカの目は点になった。

「ダンジョンキャンプ、しましょう♪」

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