【星幽塔】第一階層　冒険は自給自足で｜リアクション

【星幽塔】第一階層　冒険は自給自足で

　緊張の空気が漂った。

　なにものかが、此方を見ている。
　隙を伺い、攻撃を仕掛けようとしている。
　
　場所は、洞窟の奥――。
　天井、側面――。

　――いや、水中だ！

　ユラリと水面がうごめき、水底に長大な影が揺らめいた。

「下がっていてーーウミヘビか。あたしが捕まえてやるよ。」

　とっさに反応し、他の三人をかばって踊り出るのはティオレ。
　ついで盛大な水しぶきとともに、大人の背丈ほどもある巨大な影が、ティオレに向かって突撃する。
　
　海蛇の化け物、シーサーペント。
　ティオレはショートソードを抜きはらい星の力を発動。
　耳のピアスも、呼応して光を放つ。

「いざ尋常に･･････勝負」
　
　そのまま、海蛇の頭部めがけて唐竹割に刃を振るう。
　鍛えているとはいえ非力な女子の身、一撃一撃が致命傷になることはないが、手数で補っていく。
　シーサーペントも体をゆらゆら揺らしながら、決定的な一撃を避けるとともに、ティオレの隙を伺う。

　それを固唾をのんで見守る一同。
　超近距離戦を挑むティオレ、夏朝やルイセの中長距離射程武器では、かえって彼女を巻き込んでしまう可能性がある。
　夏夜のナイフは、ティオレとあまりにも戦闘スタイルが違う。
　加勢しようにも、ままならぬ状態だ。

　――その時。
「シャアアアアアア！」
　鋭い鳴き声を放って、海蛇の頭部が電撃的に動く。
　水流の動きに足を取られて、ややバランスを崩したティオレ。
　そのむき出しの左腕を狙って、がぶりと食いついてくる。
　白い肌に、凶悪な牙が突き立てられる。

「――！」
　一同に戦慄が走った。
　海蛇の牙の毒は、牛一頭を倒す程に強力と言われている。

　怯んだティオレめがけて、水中深く潜んでいた人面魚、ケイブシャークの稚魚たちが一斉に反応する。
「危ない！」　
　銀鱗を閃かせ、無数に飛びかかってきたそれらを、夏朝の戦輪とルイセの弓矢が貫いていく。

　ティオレの体が、さすがにこわばる。
　食らいついて話さない海蛇の牙、その左手が赤黒く腐食していく。
　毒が回り始めている。このままでは全身を冒されるのに、ものの数分とかからないだろう。
　
　その時、ティオレの右手が閃いた。
　――ざんっ。
　海蛇の頭部に、ショートソードを突き立てる。
　そのまま頭部を、力任せに引き切った。

　不老不死の呪いをかけられた彼女。
　毒程度では、彼女を屠ることはできない。
　肉を切らせて骨を断つ。
　
　すでに星幽塔の、知れた迷宮は探索し尽くした。
　今回の迷宮も、新しく見つかったということで、暇つぶしに乗り込んでみたが、彼女に取って特段新しいものではない。
　魔物も、スライム・ゴブリン・グリフォン・リザードマン・ケルピー･･････めぼしいものは食べてきた。
　人型モンスターだって、食べるのに躊躇することはない。
　リザードマンは、その巨大な体躯に比して、なにやら薬めいた妙な味がした。
　ケルピーは、当たり外れが多い。
　概して、あまりうまいものではない。９００年という時間は、食に対する興味を持続する時間としては、長すぎるのかもしれない。

　彼女の左腕も、もう元の生気を取り戻しつつある。
　生命の法則からも外れた、尋常ではない復活の力。
　それが、彼女のかけられた呪いだった。

（もう二、三匹･･････）

　水面を蹴り上げると、ティオレの敗北を確信して、死肉をあさろうとしていたサーペントが影をみせた。
　ティオレは無造作に胴をつかみ取ると、そのまま剣を突き立てる。
　おびただしい血が、水面を染め上げた。

「――来る」

　森人独特の直感で、ルイセは洞窟の奥を見据える。
　戦いの様子を聞きつけて、新たな魔物が此方に迫ってきている。

　夏朝と夏夜が、それぞれの武器を構えた。