星降ル丘ニ、嵐来レリ｜リアクション

星降ル丘ニ、嵐来レリ

【お疲れ様会】

　後の話は簡単だった。
　弘明寺が見たものを説明すれば、皆が納得するだけの話。
　逆巻も「理事長の話を聞いて、ある程度は推理が出来たよ。櫛の付喪神の事件のこともあったしね」と淡々と語った。
「彼女が従業員に対象を限定したのは、いつも修理に出してくれるのがここの従業員だからだね。彼らにいち早く気付いてほしかったんだと思うよ」

　古時計は「もっと働きたい」ということを知ってもらいたかったのに、誰にも気付かれない事を恨んでいた。
　つまり、いつぞやの人形のように、神魂の影響を受けた付喪神の暴走だったのだ。
「だとしたら、俺の聞いた声は、その子の……」
　一足遅れてやってきた加瀬。その足元には加瀬のシャツの裾を引っ張っる白い襦袢を纏った幼女がいた。

「おにいちゃん、なでてくれて、ありがとう」

　そう言って、加瀬の目の前から姿を消していった。
　憎悪に狂った付喪神は、加瀬の優しさに触れて、一瞬だけ正気を取り戻していた。
「なんでしょうかねぇ、この気分は……」
　加瀬は何気なく空を見上げた。

　そして時計はというと、後から来た直風が引き取った。
「素人が時計を弄るなんてアカン！　きざみちゃんが泣いてまうやんか！？　うちが時間を掛けてでも、腕の良い職人見付けたる！」
　きざみに言い聞かせるように、直風は時計を愛おしそうに撫でるのであった。
「霊障のある時計なんて置いたら、本当に猫鳴館がお化け屋敷になるからね」
　逆巻はこう言って時計の入手を諦めた。
「あ、まだそれ、憑いてるから」
　意地悪そうな笑みを浮かべながら、逆巻はラウンジに戻っていくのであった。

　ラウンジでは、新旧の時計を並べて３日間の行いを労うパーティが開かれた。
　霧生たちのホームパーティの規模を急遽拡大したのだ。
「渚砂はほんと料理上手だな。これから毎日俺の飯を作ってくれよ」
「お、お兄さんで良かったら、深雪のご飯はいくらでも作るぞヤッター！」
　霧生にアテにされたのがよっぽど嬉しいのか、ピザ生地を伸ばす手に力が漲る渚砂。
「みんなで作って食べると美味しいね！」
　榛名も賑やかな会場と美味しい料理に大満足。
　……榛名謹製の料理が『前衛的美術センス』と評価されたのはご愛嬌である。
　だが、１人だけこの雰囲気に馴染めない人物がいた。
「信じられない……！」
　神無月は唖然としていた。
「なんで平然と順応してるのですか？　皆さんも理事長の身勝手さは許せないのでは？　糾弾すべきは理事長です」
　しかし、この問いに頷く者はいなかった。
「皆さんには呆れました。いや、むしろここまで来ると可哀想ですね」
「おい、誰が可哀想だって？」
　偶然耳に入った宇佐見望月が声を荒立てた。
　彼もパーティーの献立作成に携わっていたのだ。
　そのまま神無月の前まで進み出た。
「ああ、俺から言わせてみればアンタの方が可哀想だな。口ばっかで自分じゃ何も出来ねぇ。他人にも頼ろうとしねぇ。まるで羽をもがれて飛べない蝶みたいだぜ」
「な……、食費がなくてパンの耳にマヨネーズ、ケチャップ、練りわさび、練りからしなどでケーキみたいに層を作って食べた私が可哀想ですって！？」
「ほら、喧嘩は止しなよ。というか、そこまでやるなら意地張らないで一緒にご飯食べればよかったのに」
　音海が２人を仲裁するも、顔を真っ赤にした神無月は憮然とした態度で寮室へ戻ってしまった。
　音海はふと、「あとでエスカルゴ先輩に料理をおすそ分けしよう」と考えるのであった。

　歓談は続く。
　榛名と渚砂が焼いた手作りピザが皆に振舞われ、宇佐見のお好み焼きも大好評で、パーティーは夜中まで盛り上がった。
　ラウンジに並ぶは新旧の時計。これからも星が丘寮の時を刻んでいくのだろう。

　……古時計の振り子箱から、小さな女の子が顔出していることに一体どれくらいの寮生が気付いているか、分からないけども。

　ボーン♪
　ボーン♪
　ボーン♪
　ボーン♪
　ボーン♪

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あとがき

担当マスター：焼きスルメ
ファンレターはマスターページから！

　お疲れ様でした。乾物こと焼きスルメです。

　従業員の体調不良は、
【神魂の影響を受けた付喪神きざみ（あるいは時計自身）が、自分の苦しみを外部に訴えかけ、暴走した結果】でした。
　最初は従業員のみを狙っていましたが、３日目はなりふり構っていられない状況だったわけで……。

『ＰＬ情報の年季の入った時計』『神魂の影響』そして『何故、従業員だけが体調不良になるのか？』
　今回はこの３点で推理して頂ければ答えに近付けたはず、でした。
「類似したシナリオが既に存在するので楽勝だろう」
　そう思っていたのですが、皆様が時計のことにあまり深く突っ込んでこないことに、乾物は少々驚きました。
　完全正解とは行きませんでしたが、最も正解に近い人はただ１人。
　リアクション内に描写しております。ご確認下さい。
　ただ、難易度が難易度なので、普段よりアクションは甘め且つ肯定的に判定しています。
（ジャンルも日常寄りに設定していましたので……）
　アドリブが多いのもこれが所以ですので、御了承下さいませ。

　ちなみに『自力で時計を修理する』はブービートラップでした。
　今回、暴走のスイッチを見事に踏み抜いており、あわや全滅の危機に晒されました。
　それと、サイコメトリー的なろっこんを持っていた方がいたのは非常に有利だったと思います。

　んでもって、星ヶ丘寮に新たな設定が誕生しました。

＜設定＞
　古い柱時計を媒介に、付喪神きざみちゃんが星ヶ丘寮に姿を現すようになりました。
（こっそりと星ヶ丘寮の皆様の生活を見守り続けます）

　霊感が強い設定のＰＣ様なら、いつかまたお目にかかる事が出来るでしょう。
　ＯＨ！　星ヶ丘寮に幼女（霊体）が常駐することに！
　あ、おイタすると霊障で体調不良になりますのでご注意を。
　くれぐれも幼女はノータッチでお願いします。霊体だけど。

　あと、理事長の首を狙う方がいるなんて目が点になりました。
　よほど寮で社会的な事件などが発生しない限り、警察なり第三者機関なりが調査に入る可能性はありせん、と明言しておきます。
　ですので今回程度の内容ならば、まずそのような事は有り得ませんので記憶に留めて戴けると幸いです。

　それでは、称号などは個別コメントにて。
　是非是非、叱咤激励、感想などをコメント欄若しくはプロフページのダイアリー欄までお寄せ下さいませ。
　１つ１つのお言葉が、次回への意欲と繋がります。
　何卒宜しくお願い致します。

　乾物こと、焼きスルメでした。

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