Afternoon on a rainy day｜リアクション

Afternoon on a rainy day

【幕開けて、雨が降り】

　ある日曜日、今日は雨の日。
　ちょうど、お昼を過ぎた辺りから怪しかった雲行きが、少しずつ現実となった。
　ポツッと小さな水の雫がはじけてから、次の雫までの距離が縮まっていき。
　やがてそれは雨と呼ばれる現象へと進化していく。
　ザァァァァ……。
　街を行く人々の中で備えていた人は傘を出し、備えのないものは走るか、あきらめたようにどこかの軒先に避難するか濡れるがままを受け入れていく。
　雨が降った、寝子島に。
　今日は、雨の日。
　雨の、日常。
　人はそこで生きている。

【十三時　雨を喜ぶてるてる坊主（女）】

　旧市街から見て、九夜山に近い場所、その山裾に、真っ白なてるてる坊主がいた。
　いや、よく見ればあれは真っ白なレインコートだ。
「ふふっふ～ん」
　鼻歌まじりで、そのてるてる坊主は、雨の中を歩いて行く。
　千代島白雨である。
　白雨は雨が降ってきたのを見るやいなや、昼食をそこそこに、てるてる坊主みたいなシルエットが可愛らしくて思わず買ってしまったレインコートを丁寧に着始めた。
（外に出る前からぐじゃぐじゃにしたくないじゃないですか！）
　そして、お揃いで買った長靴と、本当に雨が強くなった時の透明なビニール傘を持って、雨の中へと飛び込んでいく。
「きゃっほう！」
　買ったときからずっと、この日を楽しみにしていたのだ。
　そうして散歩に出た白雨は、雨の山裾をうきうきと歩いて行く。
　パチパチ、パチッパチッ。
　フード越しに当たる雨は、場所によって音が変わる。
　パシャパシャ、パッパッ！
　水たまりも踏み越えていく長靴と地面の音も、場所によって音が変わる。
　歩くたびに、晴れの日とは違う風景が、時折揺れるように白雨の前に現れては、消えていく。
　やがて、ザァザァと雨が強くなれば透明のビニール傘を広げて、楽しそうに歩き出す。
「ふふふー！　私とポンチョの気のすむまでお散歩なのですよー！」
　白雨の瞳はキラキラ輝いている。
　目に映る風景は、どれもすばらしいもので、気分を高揚させる。
　そうして、雨模様の空を映した大きな水たまりを飛び越えて、ビニール傘をくるくると回しながら、今日この日この時の世界を堪能する。
　山裾から今日はどこへいこう？
　それは、決まっていない。そんな気ままな雨の散歩。
　とびっきりの、素敵な日。

【十三時　千年杉の下にて、研鑽す】

　降り始めた雨を避けるように、するりと猫が、千年杉の下へと移動してにゃーと友人を招くように鳴いた。
「にゃーくん！」
　桜庭円は、そんな友人に続くように千年杉の下へと行き、雨の当たらない場所にバッグを下ろす。
　ジャージ姿の彼女はここで一体何をするのであろうか？
　鞄から一冊の本を取り出すと、円はあるページでそのまま留めた。
『知られざる、達人。寝子島版』（寝子島文庫刊）と書かれた本は、いつか円が紫陽花の古本市で入手した一品だ。
　その本のページの見出しには『古の修行方法～寝子島武士　横田文左衛門の刀法』とあり、寝子島のとある武士が居合いを極め、寸分たがわず刀を打ち込む為に持ちいたる修行法と記してある。
「ということで、にゃーくん。おねーさんは修行するんだ！」
「にゃう！」
　びしっと意思疎通ができているようににゃーくんは円の言葉に返事をした。
「まず、脇を締め基本的なポーズで…… 打ち抜く！」
　そういって、水滴を拳で打ち落とす練習をする円。
　どうやら、その技をボクシングに転化して使いたいらしい。
（今のはいい感じかも！）
　何回か練習してなにか手応えのようなものを感じる。
　が、実戦で使うには少し遠い気がしてならない。
「うーん、どうしよっかなー」
　連続で打ってみたり、脇を締めてみたりするもしっくりこない。
「達人になると水滴の落ちにくい場所に来た一滴を切るんだっけ？」
　そう円が思い悩んでいるときであった。
「にゃぅ！　にゃっ！」
「うん？　パチャパチャ？」
　見れば、にゃーくんが円の真似をして、水滴を猫パンチではたいている。
「にゃーくんも猫パンチで水滴打ち落としてたの？　うまいうまい」
　そう言って、にゃーくんを撫でる円、にゃーくんはごろごろと喉から甘えた声を出した。
「……ん？」
　そのにゃーくんのパンチを見た時、円ははっと思い出したように動きのイメージが頭の中にできあがる。
「ちょ、ちょっと待って！」
　そういって慌ててバッグから別の本を探す。
『目に見えぬ、知られざる超人たちの偉業　～日本編～』、『実践、猫と友達になるその方法』、『武と舞は通ず、おなじ「ぶ」の道』などが出てくる中、一冊の本を取り出した。
『本格指導！　獣の動きを取り入れた格闘術』である。
「ついに……この本をめくるときが来たようだねー」
　果たして、円は新技を身につける事が出来たのであろうか。
　だとしたらいずれ披露される日が来るであろう。
　そんな円の様子を見て楽しそうに、にゃぉうとにゃーくんが鳴いた。

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Afternoon on a rainy day

シナリオ

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