希望＜ネガイ＞が現実＜ホント＞になるところ。それがらっかみ！｜リアクション

希望＜ネガイ＞が現実＜ホント＞になるところ。それがらっかみ！

　旧市街に町並みに馴染んだアパートで万条幸次は一人暮らしをしていた。飼い猫の花遊と気ままな生活を楽しんでいる。
　今は春休み。幸次は十分な睡眠を取れた。大きな欠伸をしながら目は花遊を探す。
「これは何かなぁ？」
　黒い毛の塊が部屋の三分の一を占めていた。ふと下を見ると赤い首輪が引きちぎられた状態で落ちていた。
「これは花遊の物だねぇ。すると、この黒いもふもふは巨大化した花遊になるのかなぁ」
　黒い塊を回り込むと顔があった。額に掛けて白い山のような模様が八割れとわかる。
「やっぱり、そうかぁ。エイプリルフールと関係があるのかなぁ」
　花遊の耳がピクピクと動く。瞼が開いた。黄金色の目を細くして大きな欠伸をした。
「猛獣のような口だなぁ」
　幸次はのんびりとした口調で微笑んだ。
　花遊が立ち上がると、おー、と自然に声が出た。仰け反って後ろによろめき、幸次は尻餅をついた。
　花遊は外に行こうと歩き出す。邪魔な扉は前脚の一振りで吹き飛ばし、いきなり外へと駆け出した。
「え、ちょっと花遊！？」
　その行動には幸次ものんびりしていられない。立ち上がると急いで靴を履き、後を追い掛けた。
「待ってよー、花遊！」
　解き放たれた獣に等しい。走力の違いで黒い点に見える。
「このままだと追い付けないなぁ」
　幸次は花遊の行き先を頭の中で考える。その断片が声となった。
「……学校……違う……海はない……公園、そうか！」
　眠そうな目が大きく開いた。右手に見える道に飛び込んだ。公園への近道を全力で走った。
　出た道を左手に走った。突き当たった先を右手に曲がって間もなく行くと左手に公園が現れた。
「ここにいるはず！」
　滑り台やブランコは無視して隅の砂場に目を向ける。
　幸次の顔が緩んだ。ゆっくりと近づき、太い前脚に抱き付いた。
「もっふもふー。幸せだなぁ」
　砂場に座っていた花遊が敵愾心を剥き出しの目を向ける。
「どうしたんだよぉ。急にアパートを飛び出したら心配になるじゃないかぁ」
　花遊は自由になる前脚を砂地に何度も叩き付けて怒りを表現した。幸次は理由を探る為にろっこん、猫チェンジの進化能力1を発動した。
「どうしてこんなに大きくなったのかなぁ」
『願ったらこうなってたんだよ。それに幸次は大きいのが好きなんだろ？』
「そんなことはないよぉ。花遊はいつものままで良いんだよぉ」
　また前脚を叩き付けた。
『ウソだ！　幸次はあのライオンのことばっかり褒めるじゃないか！』
「ブロゥと花遊は同じじゃないよぉ。代わりなんていないし、毎日、一緒にいてくれる大切な家族なんだから」
『そうなのか？　ま、それは知ってたけどさ』
　花遊は機嫌よく喉を鳴らす。幸次は背中をぽんぽんと叩いた。
「もしかして嫉妬してた？」
『全然、嫉妬じゃねーし！　オレが一番ってわかってるし！』
　照れ隠しのつもりなのか。花遊は砂場に背中から寝転がり、幸次を前脚で挟んだ。
「それはちょっと、待って。甘噛みのつもりでも、その大きさは、ぎゃあああ！」
　予想通りの甘噛みは強烈であった。頭部と肩から出血して水芸を披露する羽目となった。
『ごめん、幸次！　大丈夫？』
「大丈夫！　傷もすぐ治る！」
　口にした瞬間、血が止まった。傷跡も見られない。
「あれー、ウソが本当になったねぇ」
『これなら甘噛みも平気だな！』
「ぎゃああああああ！」
　幸次の叫び声が辺りに響き渡った。その都度、ウソで奇跡の回復を果たした。
「花遊、もう少し優しく、ぎゃああああああ！」
　命懸けのじゃれ合いはしばらく続いた。