宝探しで走りまくり｜リアクション

宝探しで走りまくり

　山の中で風雨に晒された落神神社にたくさんの人が集まっていた。灯篭の下の石は、すでに取り除かれていた。境内の草むしりを買って出たと言わんばかりの姿勢で何人もが動いている。
　同じように動いていた豪が出を見つけて声を掛けた。
「先輩も宝探しですか？」
「出さんも正門の貼り紙を目にしまして」
　貼り紙をした張本人は口元を押さえて笑った。
「そうですか。先輩も頑張ってください。では、失礼します」
　豪は一礼して離れた。単独の行動を提案した天野の姿が目に留まる。
「逆巻、そっちはどうだ？　何か見つかったか」
「こっちはないみたいですー」
　大きな声で答えた天野は溜息をついた。
「……本当にどこにあるんだ？　青い石なんて」
　鬱蒼とした繁みにそれとなく目がいく。木の根に巻き込まれた石のような物体を認めた。
「朽ちた灯篭も数に入るのかな」
　人気のないところに歩き出そうとした矢先に明るい声が聞こえてきた。天野は振り返る。周囲も同じ状態なのか。新たに登場した三人を注目した。
「やあ、みなさんも宝探しですか。ぼく達も手伝うよ。刀くんに円さん。もちろん、ぼくの飼い主の夏朝もね」
　よろしく、と夏朝は頭を下げた。近くにいたみゆきは両手を強く握り締めた。
「刀さん、円さん、夏朝さん……それと猫のお人形さん？　よろしくですぅ」
「じゃあ、お人形さんが代表して握手をしよう」
　パペットは右手を出した。みゆきは人差し指と親指で摘まむ。その状態で軽く上下に動かした。
　待ち切れないという顔で円が声を発した。
「じゃあ、探すぞー。刀くん、灯篭の下の青い石だっけ？」
「俺の推理した答えではな」
「ちょっと待ってくれよ」
　パペットが異論を挟んだ。夏朝と顔を寄せ合って密やかな話し合いが行われた。結果は意外と早かった。
　胸を反らしたパペットが代表を務めた。
「みんなも聞いてよ。一問目の答えがＢだとしたら、神社の灯篭の下になるよね」
　聞き入っていた全員が同意の旨を口にした。パペットは大仰に頷いて話を進める。
「問題は二問目だよ。ヒントの金を取れのあとに、丸カッコがあったよね。覚えてるかな」
「僕が携帯電話で写したものに書かれているよ。『一問目の答えの場所』って読めるね」
　天野の言葉にパペットは、それだよ、と右手を向けた。その間に夏朝は胸ポケットから小さなメモ帳を取り出した。書き写した文章に視線を落とす。
「それとは別に『隠された指示書に従って動け』ってあるよ。隠された指示書に書かれた場所が本当の答えだったら、どうなると思う？」
「灯篭の下を……探せばいいのかな」
　みゆきの言葉に天野が付け足す。
「これって一つの言葉に二つの意味が隠されているね。ダブルミーニングなのかな」
　その場にいた全員が一斉に動いた。目に付いた灯篭の下を各々が夢中になって掘り進めた。
　泥遊びに興じる子供のように円がはしゃいだ。
　刀は黙々と地面を掘る。
　ファイトーと叫びながら豪は両手で地面を掘り返した。
　夏帆と武論は、負けるか、と互いに土煙を撒き散らした。
　出とねむるは疲れているのか。地面を撫でるように掘り進める。
　夏朝はパペットで奮闘する者を応援した。合間に空いた右手で地面を掻くように掘る。
　天野は全体の動きを見てから灯篭を選んだ。
　みゆきは少し離れた灯篭に一人で当たった。あまり草の生えていない地面は柔らかく、簡単に両手ですくい上げることができた。
　間もなく、下からビニール袋の一部が現れた。持ち上げると中に二つ折りになった紙が入っていた。
「み、みなさん、これは事件ですよ。指示書が見つかっちゃいましたよ！」
「北原、よくやった！　それでどこの場所が書かれているんだ」
　豪は手放しで喜んだ。一瞬の静寂が周囲を包む。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね。ええっと、指示書には『寝子ヶ浜海岸に向かえ』とありますぅ」
　夏帆が笑って駆け出した。数歩で風となり、落ち葉や土を巻き上げる。姿が見えない中で、夏帆ちゃんの勝ちだね、と勝利の声が高らかに響いた。
「思い通りにさせるか！　その前に北原さん、答えをありがとう」
　一礼をした武論は厳しい表情で夏帆のあとを追い掛けた。
「忙しない連中だぜ。おっと、俺はこのことを他の者にも教えてやらないとな」
　豪は携帯電話を取り出した。電波の状況は悪くない。早速、ねこったーに繋げた。宝探しに関連する内容を目にして、躊躇いなく指示書の内容を打ち込んだ。
　舞台は急遽、寝子ヶ浜海岸に移るのであった。

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