今日も愛すべき『フツウ』の日。｜リアクション

今日も愛すべき『フツウ』の日。

　ナチュラルテイストのガーリーな小物と一昔前の戦隊ヒーローのフィギュアが並んだ部屋。
　その部屋で机に向かい、頭を抱えながら、ノートパソコンと『戌貝帆立』は格闘していた。
　ときおり「あああああ!!」と咆吼しながら。
「このままじゃ間に合わないわ……どうするの二一。これじゃあほたたんに変わってもらった意味がないじゃないッ」
　うううぅぅ。
　半べそをかいて、短い髪をボサボサにして、帆立は机に向かっていた。
　夏の祭典に出すための同人誌を描いているのだ。
　しかし、どうやらはかどってはいないようだ。
「ただいまーふたたん！」
　さらりと長い髪をなびかせ、眼鏡をかけた『戌貝二一』が帰宅する。
「ほたたんお帰りぃ……先生なんか言ってた？」
　げっそりとして帆立が振り返ると、二一は首を振った。
「先生は特に何も言ってなかったですよー。ただ、」
「ただ？」
「ふたたんはすごいってことが分かりました」
「……どういうことよ」
「ふたたんの姿をして歩いてると、男子がちらちら見てきますからー」
　『ふたたんの姿をして』。
　つまり、二人の姿は入れ替わっている。
　『ワタシ→アナタ』で二一は帆立の姿に、『アナタ←ワタシ』で帆立は二一の姿に変身していたのだ。
　帆立もとい、帆立の姿をした二一はパソコンを睨みつけながら、二一の姿をした帆立に言う。
「そう……かなー？　んなことないよ。告白とかされたことないもん」
「そうですかー？　……ところで、原稿は進みましたか？」
　その言葉を聞いた帆立もとい二一は、バタンと机に倒れこんだ。
「駄目……なん、なんか違うー違うのー！　どう進展させたらいいかわかんなくなってきた」
　二一は机の上に置いた二体のヒーローものフィギュア（攻めと受け）をつついて、ため息をついた。
「だってもー二人とも天使じゃん！
　きっとお互いお付き合いしたいとか考えたことないのよ。
　ほぼ毎日犬の散歩の途中で会って、ベンチに座ってしばらくお話して、
　それがしあわせで胸いっぱいで、それ以上のことなんてきっと考えたこともない。
　なんだこれ中学生か？今時の小学生でももっと進んでませんか！　ＳＭＴ！　ＯＭＴ!!」
　熱弁する姉を見て、二一もとい帆立にやりと笑う。
「ではこれはしばらくお預けですね」
「それって……あ！　ラトンのケーキ？」
「そうなのですー！　ケーキは冷蔵庫に入れておくので原稿終わるまで食べちゃ駄目ですよ？」
「ひ、ひどい！　酷い！　あのお店のケーキ私大好きなのに……！　ううう頑張る、」
「私は原稿間に合いそうですし、軍資金調達してきますねー♪」
　購入した新刊を自分の机の上に置いて、帆立は再び出かけていった。
「いてらしゃー……ううう」
　残された二一は涙をのんで作業に戻る。
　扉が開く。
「入れ替わらないと」
「あ、ああ……そうだね」
　帆立はノリノリで、二一はだるだるでハイタッチをする。
　すると二人の姿は入れ替わる。
　そして、何事もなかったかのように帆立の姿をした帆立はバイトに向かった。
　