今日も愛すべき『フツウ』の日。｜リアクション

今日も愛すべき『フツウ』の日。

「いらっしゃいませ」
　店主の荒井景貴が柔和な笑浮かべる。
　洋菓子店『Raton』は雨の日でも変わらない賑わいを見せていた。
「今日は喜好は来ないのか？」
　ジニー・劉が鹿嶋洋美を連れて、やってきた。
「今日はアネモネのあとに少しだけ来る予定ですよ」
　荒井が笑顔で答えると、劉は考えるような仕草をしてから洋美に言う。
「じゃあそれまでなにか食うか？」
「は、はい」
　劉は紅茶を、洋美はにくきゅうマカロンをいくつかと紅茶を頼んでイートインスペースへ向かった。
　続いてやってきたのは戌貝二一。
　家で待つ『姉』のために、帰り道にあるこの店でケーキを買いに来た。
「モンブランショートケーキ……あ、レアチーズムースも食べたいですねー」
　両方を注文して、あとで分けっこしよう。
　あ、あと今日漫画の新刊の発売日だから、アニメショップも覗いていかないと。
　二一は時間を気にしながら、店を出ていく。
「今月のオススメはなんだ？」
「さくらんぼのケーキを期間限定で販売しております。
　あとにくきゅうマカロンのご試食のサービスも行っております」
「おお！」
　神野マキナは目をキラキラとさせて、注文をしてイートインスペースで糖分補給に勤しんだ。
「クッキー、もらえる？」
　甘いものが苦手なはずの逆巻天野は、大量のクッキーを購入してそそくさと店をあとにする。
　荒井は客足が落ち着いて、こっそりと息を吐く。
（雨の日だからですかね。むしろいつもよりお客さんが多いような気がします）
　雨の日の憂鬱を少しでもぬぐい去ることができれば。
　荒井は笑顔を浮かべて、お客たちを迎える。

　それからしばらくして八神修と後木真央（それから子猫たち）がやってきた。
「すんでのところで入れ違いだったのだー」
「おそらくこの店にいるだろう」　
　荒井はいつも通りの笑顔を浮かべる。
「いらっしゃいませ」
「甘喜好は来ていますか？」
　八神が尋ねると、苦笑しながら荒井は答えた。（喜好くん人気者ですね）
「もうすぐ来ると思いますよ」
「では、待たせてもらいますね。フィナンシェをお願いします」
　先の二人と似たような会話を交わして、八神と後木はイートインへ。
　五分。
　十分。
　十五分。
　まだだろうかと八神が苛立ちはじめたとき、待ち人来たる。
「到着なのデース」
「なのでーす」
　毒島柘榴、毒島イヴが喜好と手を繋いで、店の中に入ってくる。
　荒井はカウンターから出て、三人に近寄っていった。
「お疲れさまです。ありがとうございます」
「待たせたな」
　荒井と柘榴は視線を合わせる。
「じゃあ、ここで待ってるが……後は任せたぜ？」
「……はい」
　それから荒井は、かがんで喜好と目を合わせた。
「じゃあ奥で着替えてくれるかな」
「うん」
「お店の方はよろしくお願いします」
　店員に声をかけて、荒井と喜好は奥へと消えていった。
　あっという間のことだったので、喜好を待っていた人々は声をかけそびれてしまう。
　後木もそのひとりだった。
（ネコと一緒に遊ぼうって誘おうと思ったけど、頑張ってるからそっとしておくのだ）
　後木は喜好の後ろ姿をニコニコと見送った。