吸血の島｜リアクション

吸血の島

「何？　猫だと？」
「あぁ。どうにも妙な猫どもがいるそうだ」

　それはとある場所にある吸血鬼の集まる施設での会話。
　彼らの敵はハンターだ。例えば、最近様々な施設を襲撃する赤い刃を扱うハンターを中心とした三人組とか吸血鬼ですら超える速度で動く刀を使うハンターとか、厄介なハンターの話は良く噂になっている。
　だけど、今彼らが話しているのはそれとは違う。ハンターとはまた違う妙な存在がいるという話だった。

「その猫どもに吸血鬼がやられていると？」
「らしいぜ？」
「どうにも信じがたい話だが……」
「まぁ、良くわからん話なんだよな。調査をしようとすると、その妙な猫どもはどこかに消えっちまうらしいしよ」
「ふむ……」

　彼らは知らない。その話が真実である事を。
　彼らは知らない。猫の神からの神託により、猫と共にこの島にて影から人を支えている存在がいる事を。

「ふぅむ。なるほどねぇ。例の裏切り人は吸血鬼に殺されたのかい」

　電子パイプを嗜みながら猫達が集めてきた情報に耳を傾けているのは猫屋敷宝だ。
　寝子島で猫と共に生きてきた彼は、変質した寝子島でも変わらずに猫達と共にいた。

　彼はハンターではない。相も変わらずに猫と共に生きているだけの人物だ。
　しかし、この変質した寝子島にて猫の神より神託を受けた時から、人を影から支える存在となったのだ。

「しかし、裏切り人を殺したのと良い戦闘狂の吸血鬼達は厄介だねぇ。殺戮が目的ではないから、他の連中と違って油断がない。細かく場所を把握しておく必要があるだろうね。特に裏切り人を殺した奴は霧の結界で閉じ込める事ができるから、生存者達の近くには寄らせたくないねぇ」

　宝のその言葉に答えるように沢山いる猫達の一匹がうにゃうと鳴く。
　その猫が事の一部始終を見ていたが為に、裏切り人を殺した吸血鬼の能力が判明したのだ。

「うん、良くやったねぇ」

　そう言って宝は猫の頭を撫でる。そして、次に別の猫が前に出てきて、得た情報を宝へと伝え始めた。

「ほほう。また新しい施設の場所が判明したかい。そうだねぇ……確か、赤刃のは前に教えた施設の襲撃を済ませて手隙のはずだね。なら、彼らに情報を流すとしようかい」

　宝はサッと手紙をしたためてから、傍にいた猫の一匹へと渡す。伝書鳩ならぬ伝書猫である。
　こうして猫を用いて宝は、ハンターや寝子高にいる存在者達と情報のやり取りをしていた。
　有力な吸血鬼の場所や吸血鬼関連の施設の場所等を把握した場合には、ハンターには退治の為に知らせ、生存者には注意勧告の為に知らせる。
　しかも、宝の活動はそれだけではない。ハンターや生存者達が活動する為の物資の調達もしているし、緊急時には戦闘訓練をした猫を率いて吸血鬼と戦う事すらあるのだ。

　ある意味、強力なハンター達よりも吸血鬼にとって厄介な存在なのだが、未だに吸血鬼達は宝の存在を知覚していない。
　臭いを誤魔化したりして徹底的に自らの存在をバレないようにしているからだ。

「さて、そろそろ移動しないと連中にバレっちまうかもしれないね。ほら、そろそろ移動するよ」

　のそりと宝が立ち上がると、それに合わせて猫達もまた起き上がる。
　吸血鬼達が違和感を感じて、ここにやってきた時にはまるで誰もいなかったかのように消え失せた後であった。