吸血の島｜リアクション

吸血の島

「あのさー。こうなっちまったもんはしかたがねえよ。諦めるこった」

　煙草の煙を吹かせて一言。鳳翔皐月は倒れているハンターを前に何ともないようにそう言う。

「何、を……」
「いやだってよ。もう島の半分以上は吸血鬼だろ？　ならもうあきらめて人間ヤめて新しい日常、新しいフツウってやつにステップアップしようぜ？　それが一番賢いだろ？」
「ふざ、けるな……」
「あん？　ふざけてなんかいねぇんだけどなぁ。これでも大真面目も大真面目だぜ？　だから、他の奴もフツウを送れるように勧誘してるんだしな。そういう信念を持って吸血してるんだぜ？　でも油ぎったおっさんとか臭いがキッツイ人間はほかの奴にまかせるけどな！」

　つまり、信念と好みはまた別問題だという事なのだろう。

「んで、どうする……っと」

　再び倒れているハンターに尋ねようとして、何かに気付いた皐月が身を翻す。
　重い音と共に一瞬前まで皐月がいた地面が割れる。巨大な斧による一撃で割れたのだ。

「私は嗅覚・聴覚が鋭いから不意打ちや奇襲はきかねえぜ？」
「ちっ！」

　奇襲を失敗したと見るや、ハンターは跳んで距離を取る。
　基本的に吸血鬼とハンターでは身体能力などの基礎能力は吸血鬼の方が高い。それ故に、一部のハンター以外は不意打ちや奇襲、待ち伏せ等でアドバンテージを取ろうとする者が多い。
　しかし、そういうハンターこそ皐月からすれば鴨なのだ。

「膂力で勝てねえからって頭を使おうとしたんだろうが、こっちにだって頭はついてんだぜ？　しかもこの辺り一帯は私のテリトリーだしな。そう簡単にはアドバンテージは取れねぇよ」

　皐月の言葉を聞きながらも、ハンターは一時も油断をしていない。倒れているハンターを庇うように、斧を構えている。

「うん、どっちも合格ってところだな。どうだ？　吸血鬼になって色々と楽しまないか？」
「誰がなるものかっ！」
「んー……。そんなに嫌なものかねぇ。大体どいつも皆似たような事を言うなぁ。……でも、あんたらの場合は少し楽かもしれねぇけどな？」

　斧を持っているハンターは女の子。倒れている方は男の子。
　こうして見ているだけでも、皐月からすると互いが互いを想いやっているのが理解できた。つまりはそういうわけだ。

「私だって皆殺しや無理やりの吸血なんかは面倒なんで自主的に吸血鬼になってくれれば楽でいいんだがな。そっちの彼氏も、目の前で彼女がボロボロになれば気が変わるだろ」
「そんなわけないっ！」
「ははっ。威勢が良いこったねぇ。それじゃまぁ、私の右足の餌食にでもなって貰おうかねぇ。あぁ、安心していい。殺しはしないからな」

　そして、その暫く後、ボロボロになって倒れ伏す少女のハンターを皐月は煙草の煙を吐きながら見下ろしていた。

「……私はただいつも通りにミニシアターをやれるフツウが欲しいだけなんだがな」

　それは今の皐月の本心だ。
　皐月としては誰かを殺したいという欲も、血を飲みたいという想いもないのだ。だけど、それをハンター達は許してくれない。それ故にそのフツウを得れるように、仲間を作っているのだ。
　新たなフツウを得れる日は、まだ遠い。

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