【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――｜リアクション

【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――

　龍目豪は胸を張って堂々と闊歩する。ひらひらと舞い落ちる紙片を見た。光を反射して季節外れの雪を思わせた。
　豪は出所を探る。南校舎に目が留まった。生徒達が笑顔で紙片を撒いていた。その中には見知った顔があった。
「雨崎、ありがとな！」
「龍目先輩、地下帝国ではお世話になりましたー！」
　荒太郎は大きく手を振る。豪も手を挙げて応えた。
「なんか、胸にくるもんがあるよな」
　豪は全てに目を向けた。自然に笑みが浮かぶ。
　――寝子高での日々は楽しかったな。
　猫鳴館はおんぼろで隙間風が酷くて不満もあるが、ねずなんて不思議な種族を発見した。地下には巨大な空間があって地下帝国と呼んでたな。探検部としては外せないスポットだ。鼻岬洞窟では冒険に相応しい体験をした。
　豪は昔を懐かしく思い出す。その傍らで周囲にいる後輩達に朗らかに手を振った。
　――最近の話ではあるが同級生達との勉強会も良かった。何もかもが良い思い出になってゆく。
　後ろを振り返って南校舎を見た。
　――そう言えば落ちてきた南校舎を素手で受け止めたこともあったな。
　卒業生を送る会は本当に堪能した。数々の料理に腹が膨れ、後輩達のパフォーマンスには胸が熱くなった。あと思い出すのは先生だな。
　目で探していると御剣刀を見つけた。
「お、関係者を発見だ」
「龍目先輩、ご卒業おめでとうございます。あと、関係者って何ですか？」
　思い当たる節がない刀は困ったような顔で問い掛ける。豪は豪快に笑った。
「そりゃそうだ。俺の頭の中の話だから、わかるわけがないよな。大橋先生のお見合いに協力してくれた仲間って意味だ。あの時はサンキューな」
「覚えていますよ。先生のうっかりの連発には苦労しました。でも、最後は上手くいって良かったです」
「ああ、そうだな。その当事者の大橋先生が見当たらないが、居場所はわかるか？」
　豪の問いに刀は苦笑に近い表情となった。
「うっかりは相変わらずで職員室に忘れ物を取りに行ったみたいです。あと少しで戻ってくると思いますよ」
「そうか。実に大橋先生らしいな。お、噂をすれば。じゃあな、御剣」
　豪は横に逸れて大橋尚に声を掛けた。
「先生、ようやく会えました」
「あら、龍目君。私を探していたのですか？」
「今日は卒業式なので、どうしても伝えておきたくて」
　豪は背筋を伸ばした。しっかりと目を見て真剣な表情となった。
「先生、お世話になりました。高良さんとお幸せに！」
「はい、え、どうして高良さんが、もう、こんな大勢いるところで……」
　しどろもどろとなって顔を赤らめる。
「ありがとな、先生！」
　小言がくる前に豪は笑顔で走り出す。目は何かを探すように動いた。
　――理事長にも挨拶しようと思ったが。どこ行ったんだ？　まあ、卒業してもそこらで会えるかもしれないけどな。
　少しの不満は見つけた探検部の後輩達にぶつけた。
「今度はOBとして来させて貰うぜ。探検部に危険は付きものだが、安全第一で頑張れよ！」
「わかりました！　先輩、今までありがとうございました」
「ご卒業、おめでとうございます！」
「また指導をよろしくお願い致します！」
　後輩達の言葉に豪は、おう、と威勢よく返した。