【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――｜リアクション

【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――

卒業生パレード
　講堂の卒業式は厳かに終わった。先生の指示に従って移動が始まる。
　雨崎荒太郎は水泳部の部長として後輩の水上桜を伴って南校舎に急ぐ。
「でも、部長。いつの間に用意していたんですか？　全然、気付かなかったです」
「サプライズは秘密にしないとねー。いやー、本当に隠しながらの作業は苦労の連続だったよー。聞きたい？　そんなに聞きたいなら」
「いえ、結構です。部長、校舎に入りますよ」
「水上さん、クールだねー。いぇーい」
　荒太郎は間延びしたラップ調で返した。未だに影響から抜け出せない。葉月のインパクトは相当に大きかった。
　二人は南校舎に入った。階段の中二階で万条幸次と偶然に出会う。
　幸次は柔らかい笑みを浮かべた。
「もしかして屋上に行くのかなぁ」
「そうだよー。お世話になった先輩達の為に細かく切った紙をパッパーと撒いて、クラッカーを使った派手な演出を用意しているんだよねー」
「そうなんだぁ。俺は特にお世話になった先輩はいないんだけどねぇ。そういう係になったし、気持ちよく送り出したい気分は人並み以上にあるから、がんばろうかなぁって思うんだよねぇ」
「良かったらクラッカー演出の時に一緒にやって貰えると嬉しいんだけどー、どうかなー」
「盛り上がることなら俺も手伝うし、なんでも言ってねぇ」
「ありがとー、助かるよ。ぼくもそっちのことを手伝うから、いつでも言ってねー」
　荒太郎と幸次は緩い会話を続ける。その傍らで黙って聞いていた桜は微笑みながらも右足を激しく揺すった。
「こんなところで長話をしていたら間に合いませんよ。早く屋上に行きましょう！」
　桜は小鼻を膨らませて一人で階段を上がっていく。二人はのんびりと会話をしながら付いていった。
　三人は屋上に着いた。一様に驚きの声を上げた。
　大きな袋が幾つも並ぶ。様々な色の細かい紙が山盛りの状態で用意されていた。
「これ、全部、撒ける？」
　桜は半笑いで言った。
　驚きながらも幸次は袋を見て回り、一つの袋に目を留めた。
「これは他の物とは少し違うねぇ」
「どれどれー」
　荒太郎が横から覗き込む。花弁のような一枚を摘まんだ。
「これ、本物っぽいけど造花だねー」
「あー、思い出した。他にも言い方はあるけど、ペタルフラワーだねぇ」
「そうなんだー。知らなかったよ。ピンクっぽいところが桜みたいでいいねー。今はまだ咲いていないけど、代わりになると思うよ。これはなんだろう？」
　荒太郎は袋の中で半ば埋もれていた紙を摘まんで引っ張り上げた。
『百花繚乱の紙吹雪を期待している。By旅鴉』
「なるほどねー。旅鴉さんはさりげなく豪快だねー」
　納得の声で頷く。
「そんな呑気なことを言ってる場合じゃないですよ！　卒業生が来ました！　あれは……水泳部の先輩がいますよ！　早くしないと！」
　桜は置かれていたクラッカーをむんずと掴む。近くの袋の中に手を突っ込み、大雑把に空に投げ込んだ。細かい紙片は上手く風に乗って綺麗な紙吹雪となった。
　全員が持ち場について忙しなく動き出した。