【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――｜リアクション

【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――

　思い詰めたような顔で佐和崎紗月は名前が呼ばれるのを待った。
　その時がきた。少し上ずった声で、はい、と返事をして立ち上がる。階段を通って舞台に立つと視線が集まった。避けるように目を逸らし、校長と向き合う。定型句で差し出された卒業証書を受け取ると、多方からパフォーマンスを求められた。
　紗月は舞台袖に置かれたピアノを見た。少し迷うような表情を見せながらも、ピアノの演奏で、と小声で答えた。
　椅子の位置を調整して座ると拍手が起こる。顔を横手に向けてぎこちない笑みで会釈をした。
　ピアノに向き直る。急な要望なので楽譜は持参していない。取り敢えず、白い鍵盤に両手を差し出す。
　すると過去の記憶が鮮やかに蘇った。
　瞬間、口にした。
「ドビュッシー作、アラベスク第一番」
　紗月は迷いを捨てて弾いた。何音か外してしまった。指の端が触れて音が濁ることもあった。
　それでも指は止まらない。心の奥底で儚く燃えていた情熱の全てを注いだ。目に涙が溜まる。振り払うように頭を振った。
　間もなく情熱は燃え尽きた。最後の一音を鳴らし、両手は鍵盤と別れを告げた。
　紗月は目を閉じる。沸き起こる拍手を夢心地で聞いた。