決戦絶神！分かれ合わさる運命、絶望、未来｜リアクション

決戦絶神！分かれ合わさる運命、絶望、未来

●月、静かの海、センジョ戦（３）

　フィリップには後悔があった。
（……この前の山羊鬼みたいな、強くて怖いもの。あのモンスターが寝子島に来たのも、絶神のせいですね。僕は、桜栄先生を守りたくて……でも、守ることなんて、引きとめることも、できなかったです）
　……もう、あんな思いは、したくない。
　いろいろな人に、怖い思いも、痛い思いも、して欲しくない。
　だから――。

「いったーーい！！」
　メイプルリリーが打たれた頬を抑えて飛び上がる。
「すみません。僕のろっこん、指輪をした手で触ることで、傷の治癒をします」
「触った強さによって効きがよくなるんです。触るより押さえる、押さえるより叩く方がよく効きます」
「あなた苦しそうだった」
「だから思い切り殴りました。……どうですか？」
　そう言われてメイプルリリーはようやく気付いた。
「あれ？　身体、楽になった！　動ける！　動けるよ！」
　よかった、とリーパとフィルは破顔する。
「ありがとう！　仕切聖女メイプルリリー復活よ！」
　メイプルリリーがきりっとウィンクして決めたのも束の間。

「ハハハ、地球から来た人間なぞ小蝿に等しいわっ！　我が矢に打たれくたばるがよい！」
　センジョが矢継ぎ早に放った矢が、雨となって飛んでくる。そのどれか一本にでも掠ったら、さきほどのメイプルリリーの苦痛を味わうことになる。
「みんな避けて！　攻撃が来る！」
　矢が来るより一瞬早く叫んだのは陽太だ。彼が＜ＣＣＣ＞で放った粘土細工たちは密かにセンジョに接近し物陰で諜報を行っていた。進化能力で粘土たちと視覚共有していた陽太は、人より早く攻撃を察知できたのだ。
　その声に、颯爽と立ち上がったのはメイプルリリーであった。
「さっきの二の舞にはならないよっ！」
　メイプルリリーリーパとフィル、ふたりのなぎさを守るように両手を高く掲げて言い放つ！
「当たらせない！　舞い散れっ！」
　花弁などが自然に舞い散るイメージがメイプルリリーの脳内に広がると同時、飛んできた矢の動きが遅くなった。楓香のろっこん＜falling slowly＞の能力で、念力を使ったのだ。
「やるじゃん！　なんだかわかんないけどあたしたち最強じゃない？」
　楓香の中のゆりの言葉に楓香が答える。
「そうそう、これはゲームみたいなもんだから、うまく力を使って！　ガンガンいこーぜっ☆」
　もう矢は怖くない。
　メイプルリリーはヒキガエルの波の奥に悠然と立つ美しい仙女を睨みつける。
「あれが仙女ね？　ぼっちで可愛そうだけれど」
「行こう！　倒すよ！」
　彼女は自撮り用セルカ棒をステッキのように持ちカエルを弾きながら進む。
「うわ、きもっ　昔は触れたけどっ」
「待ってください」
「僕たちも行きましょう」
　リーパとフィルはカエルの粘液に直接触らないように手に布を巻き、上着を脱いで振り払いながら進む。
　だが前面に出ることはしない。自分たちが両方とも毒を受けてしまったらすべきことを果たせないからだ。
　ふたりのなぎさも赤いメディカルバックを振り回しながら後に続く。
「ちょっとでもみんなを助けよう」
「うん。でも……数が多すぎる」
　今のところカエル相手に最も強力なのは少し離れたところから凛簾がぶっ放しているレンチミサイルだ。彼女たちはミサイルのあとに出来る一筋の道を伝って着実に先へ進めている。だが、少しするとカエルたちは波のようにすぐに空いた空間を埋めてしまう。自撮り用セルカ棒や上着、メディカルバックでは、降りかかる火の粉を払うことはできても、先に進むのは困難だ。
「くッ、矢は＜falling slowly＞でなんとか躱せるけど」
　メイプルリリーの顔が歪む。多すぎるカエルの不快さに吐き気すらもよおしかけたそのとき。

　ブォォン、オォン！！　ンォォォォン、オォォオォォン！！

　耳を疑う。まるで戦国時代の合戦場に響くような法螺貝の音。
　月の戦場には明らかに場違いなその音は、けれど確かに、高らかに、響き渡ったのだ。