決戦絶神！分かれ合わさる運命、絶望、未来｜リアクション

決戦絶神！分かれ合わさる運命、絶望、未来

●月、静かの海、センジョ戦（１）

　月の地形は富んでいる。
　山があり、谷があり、クレーターがある。
　そして『海』がある。
　――地球から見ると暗く見える月の平原。かつては本当に水を湛えていると思われていたが実際には暗い色をした玄武岩である。何十億年もの昔、月には多くの隕石が衝突していた。そんな巨大なクレーターの穴をマグマが埋め、冷えて固まったものが海と呼ばれる場所の正体だ。
　ここ、静かの海もそのひとつであった。
　呉井陽太はそんな月の平原のただ中で、分離した自身のドッペルゲンガーと対峙していた。
「……またキミか」
　陽太がいうと、攻撃的で狡猾な性格をした分身はにやりとして応える。
「まぁまぁ、そー言わずに。困ってるなら手伝うよー」
「うわ、何か企んでそう」
　細い目をさらに細めて訝しむ陽太の淡い色した髪を掴み、ぐっと引き寄せ分身は耳元に囁きかける。
「人聞きの悪いこと言わないでよー」
　ああ、コイツとは打ち解け合える気がしないな、と陽太は思う。

「月からの景色、きれー……映えそう」
　雨崎楓香と三宅ゆりが合体したその少女は、身体にフィットしたサイバーなデザインの戦闘装束に身を包んでいる。濡烏色の髪は楓香、サイドテールの髪型がゆりのもの。
　仕切聖女メイプルリリーと名乗った少女は、女子高生らしさ全開ではしゃいでいた。
「スマホで撮ろうよ～、そんな場合じゃない？？」
　シュ、と頬を何かが掠ったのと、「あぶない！」と音海なぎさの声がしたのは同時だった。
「え、何？　弓矢？」
　メイプルリリーは頬を押さえて何かが飛んできた方を見た。
　静かの海の向こう、絶神の右手が仙女・センジョの姿を取って大きな弓を構えている。彼女が従えているのは幾千幾万というヒキガエルの群れ。正直言って気分のいい眺めじゃない。
「大丈夫？」
　赤いメディカルバックを抱えたふたりのなぎさが駆け寄ってくる。
　メイプルリリーは余裕の顔で、
「こんなのかすり傷……」
　といいかけ、視界がぐらりと揺らぐのを感じた。
「あれ……？」
　なぎさに抱き留められたメイプルリリーの盾になるように、蒼玉と紅玉をそれぞれ手にしたふたりの嘉渡洲稀跡が立ちはだかる。
「毒矢だわ」
「伏せて」
　言うが早いか、稀跡は＜うつろうきせき＞で月の小石を次々に複製する。
「行くよ、蒼の私」
「了解、紅の私」
　蒼と紅、ふたりの稀跡はそれぞれスリングショットを手に、月の石を発射した。
　石に撃たれたカエルは群れの中から弾き出され、白いお腹を見せてひっくり返って後進のカエルの群れに飲まれていく。だが、攻撃手がふたりだけでは焼け石に水だ。もっと――味方の力がほしい。

「ほらさっさと敵を始末しよ」
　分身陽太が陽太を促す。
「そうだねぃ、オレらはオレらの方法で協力しあいましょっか」
　打ち解け合えなくても協力はできる。なんといっても自分なのだから。
　ふたりの陽太はそれぞれ、ちいさな動物の粘土細工を五体ずつ懐から取り出すと、指でつついて＜ＣＣＣ＞を発動させた。粘土細工はぴくぴくと動いて駆け出す。
「オレらの相棒」
「頼んだよぅ」