決戦絶神！分かれ合わさる運命、絶望、未来｜リアクション

決戦絶神！分かれ合わさる運命、絶望、未来

●プロローグ～星幽塔、第一階層

「まったく……」
　盛大なため息。
　星幽塔第一階層を統治するフランチェスカ・ダ・サジタリオの乱れに乱れた部屋。
「悪しき神に立ち向かおうというときに、貴女の部屋を片付けるところから始めねばならないとは」
　悪態の主はフランチェスカと合体してしまった補佐役のジルベルト氏であった。
　服は脱ぎっぱなし。物は散乱しっぱなし。とにかく床というものが見えない。
　以前、皆に手伝ってもらって片付けたが、残念なことに戻ってしまっている。
「し、仕方ないでしょう。急に私の部屋にあるなんて言われても……」
「普段から片付けていればいい話です」
　もごもごと言い訳するフランチェスカをぴしゃりと黙らせるジルベルト。
　先代から仕えるジルベルトは、第一階層にあるシャウラの泉の水で若返って以来青年の姿を保っているが、合体してフランチェスカをすこし成長させたような一人の女性――フランジルになっている。二人の意識は一つの体の中に共存していてそれぞれに喋るので、傍から見ていると落語家がひとりで人物を切り替えて喋る「はっつぁん」「くまさん」状態だ。
　彼女の部屋には、そっくりな二人の三毛猫ほしびとミーツェ・Ｍ・フェリスと、年の近い姉妹のような二人のシオ・レイゼルオークが駆けつけている。
「パーツは……このお部屋の中ですにゃ！？」
「ま、魔窟部屋～？！」
　部屋の状況に驚きの声をあげ、それから２人のミーツェと２人のシオは顔を見合わせあった。
「額に何も書いていない方がミーチェですにゃ」
「ミ……ニーツェですにゃ！　額に金色のにくきゅうマークがあって、『２』の首飾りある方ですにゃよろしくですにゃー！」
　ややこしくないかにゃ、と上目遣いで尋ねると、シオ達は首飾りで見分ければいいから大丈夫と頷いた。
「私たちのことは便宜上、青い服で髪を下ろしている方をシオα、赤い服で髪をくくっている方をシオβと呼んでください。それにしても、片付け甲斐のありそうな部屋ですね」　
「こうなったらお掃除ですにゃ、綺麗にすればパーツも見つかるですにゃー！」
「でも一体どうすれば……？」
　片付けられない部屋の主、フランジルは不安げに小首を傾げる。
　ウィンクで答えたのはシオαであった。
「大丈夫、お片付けの雑誌が手元に！」
　その雑誌によると、方法は至ってシンプルだ。
「一、物を透明の袋に入れる。
　二、置いてた場所を拭く。
　三、物を戻す。この時、物を磨く。
　四、捨てる減らすなし」
「それだけ？」
「はい、それだけです」
　シオβが「捜し物『トリガー』」と書いた紙を壁に張る。
　机の上は物を置かないと決め、窓を開け換気をする。
　てきぱきと動くシオ達に感服したフランジルが最敬礼で指示を仰ぐ。
「シオ殿、どこから手をつけましょう？」
「部屋を区切って一か所ずつ作業しましょう。最初は一番窓際の一角から、『全部』出す、退けて拭く、磨いて戻す、です。一区画終わるごとに休憩を取りましょうね」

　彼女たちが探しているのは、月で戦う者たちを支援するための『祈りのメロディ』を送る巨大でとくべつなカノン砲『祈りのカノン』のパーツのひとつ『トリガー』だ。『祈りのカノン』のパーツは星幽塔の十二階層に一つずつ散らばっているという。できるだけ急いで探し集めなければならない。

　シオαとシオβの働きたるや、百人力と言ってよかった。置き場を変えない、捜し済みには印をつけることを厳守して、てきぱきと物を袋に詰めていく。彼女たちには及ばないが、ミーチェとニーチェ、フランジルも良い働きだった。何度か休息を挟み、見えなかった床があらかた見えてきたそのとき。
「あ、これじゃないでしょうか！？」
　ベッドの下を覗き込んでいたシオβが、棒に似た形の金属の塊を引っ張り出してきた。
「きっとそうですにゃ！」
「よかったですにゃ！」
　疲れも忘れて飛び跳ねるミーチェとニーチェ。物はふたりが運ぶことにして。
　シオαとシオβはフランジルに向き直る。
「私たちはもう少し片づけを手伝います」
「日々少しづつ整頓できるように袋ごと箱に詰めちゃいましょうね」
「ご協力心より感謝します。ご指導何卒お願いいたします。シオ殿方」とジルベルト。
「お、お手数おかけします」恐縮するフランチェスカ。

　お片付けタイムはまだしばらく続きそうだ。

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