2月、寝子島神社では節分祭が行われる。
鬼役は鬼の姿をして練り歩き、豆撒き役は鬼に豆を投げてぶつける。
境内は島内外から集まった鬼であふれかえり、和やかではあるものの一種異様な光景が広がる。
奇妙なイベントで盛り上がることの多い寝子島ならでは、と言える。
「ふーむ」
オカルト好きの寝子高生
晴海 飛鳥は、賑わいから離れた裏手の小さな森の中へと足を踏み入れていた。
何かを感じ取ったのか、誰かに呼ばれたのか、ふらふらと。
そして木の陰に、随分と気合いの入った本格的な鬼のコスプレで参加している者を見た。
いや、本当にコスプレだったかな? 好奇心に抗うことは難しく、後を追っていく……。
その鬼は山羊のようなクルンと丸い角を二本ほど頭から生やして、青黒い顔で般若のような形相をしていた。
山羊鬼は素速い身のこなしで軽やかに跳ねると、優に2メートルはあるであろう木の枝に手をかける。
その枝を支点にまるで木の幹を走るかのようにタタッと駆け上がり、気がつけば枝の上に腰掛けていた。
「ふん。こんな遠回りな手段を使う必要があるとはな。滑稽滑稽」
十手のような小さな金棒を手にする山羊鬼は、飛んでくる四つの豆を難なくはじきかえして、飛んできた方向を一瞥する。
ギク……ためしに豆を投げてみた飛鳥は、息を潜める。
山羊鬼は、遠くの参拝客に視線を移す。どうやら誰かを待っているようだ。
そのとき、
「う、ううう……たすけて…………」
うなる声が聞こえたかと思うと、山羊鬼は金棒を木の枝に突き刺す。
飛鳥はハッとする。
一瞬、見えた気がする。
木の枝と同一化しているような、金棒が腹に刺さった少年のような姿が。
「お前ら人間は、道端の石ころをいちいち割るか? 俺もお前をいちいち割るつもりないわ。
取り替えたら解放してやるからな。安心安心」
飛鳥は木の陰に潜んだまま、息を整える。
山羊鬼の視線の先には、何も知らずにやってくる人々。
この中に、「枝に囚われた少年」と取り替えられてしまう者がいるのだろうか。
寝子島神社には、このあといろいろな人が訪れる。
そのうちの何人か、山羊鬼が遠くにいる時点で反応した人物たちを少し見てみよう――
ひとりめ。
境内の隅で、朽ちて穴だらけの切り株をじっと見つめる中年男。
寝子高の教頭である、
津止 孝道。もれいびである。
異世界との出入口を見つけたのだろう、静かに観察している。
信頼できるもれいびの生徒とは既に連絡を取ったのか、たまに人を待っているような仕草も見受けられる。
「神魂がある限り、異変が収まることはない……」
ふたりめ。
ほろ酔いでふらふらと鳥居をくぐるのは、寝子高の理事長、
桜栄 あずさ。
気まぐれで不真面目な大人のようにも見えるが、学校の自由な雰囲気と個性を重んじる空気を生み出している。
今日も普通の学校では生きづらいであろう少年を寝子高に受け入れるべく、ここで会う約束をしているとのことである。
「真面目に考えてるわよ~? だってもっと楽しい学校にしたいじゃな~い?」
さんにんめ。
虎のパンツにくるくるパーマという、なかなかに気合いの入った鬼のコスプレ姿。
寝子高生であり、らっかみであるところの
野々 ののこ。
ばっひゅーーーんと元気よく楽しそうに、きょろきょろしながら駆けていく。
「鬼だぞ鬼だぞー! 友だち見つけたら、わーっと驚かせちゃおっと♪」
今宵、お祭りだというのに夜空が重くのしかかってくる。
嫌なことが起こりそうで、簡単には避けられそうにない気配だ。
しかし、何かできることはあるはず。
もれいびは、いつだってそうやって乗りこえてきたんだから。きっと……。
こんにちは、風雅宿です。よろしくお願いします!
晴海 飛鳥さん、ガイドにご登場いただきましてありがとうございました。
半分は、寝子島神社の節分祭などで自由に過ごす、フリーシナリオです。
半分は、山羊鬼の陰謀と対峙する、非常に難しいミッションシナリオです。
フリー派の方は、お好きなようにお楽しみください。
ミッション派の方は、心してかかってください。今後の寝子島に大いに影響があります。(アクション次第)
フリーパート
★ 寝子島神社の節分祭
豆撒き役は豆を撒きながら境内を練り歩き、時に走り、
鬼役が逃げ回り、時に受けて立ち、
一般の参拝客が見守り、時に豆を投げられます。
誰がどの役をやってもいいですし、参加しなくてもいいですし、自由です。
お汁粉やお神酒も振る舞われるので、出店なども楽しみつつ、のんびりお過ごしください。
★ その他
それぞれの家や寮、お店などなどで、
豆撒きをしたり恵方巻を食べたり、節分行事を楽しむ様子をご自由にどうぞ。
★ NPC
ミッションパートに登場するNPC以外であれば、自由に登場させられます。
ただ、特定のマスターさんが扱っているキャラは難しいので、ご遠慮ください。
節分祭でも、寮や店などでも、場所や時間もご自由にどうぞ。
基本的には偶然出逢う形になり、1日ずっとというのは難しいと思います。
Xイラストのキャラとの交流なども大丈夫です。
腐れ縁のあいつと豆投げつけ合ったり、どうでしょう?
ミッションパート
ガイド本文にある情報は、知っていて構いません。
晴海さんのように自分で目撃した、誰かに聞いた、テオに聞いた、などご自由に。
この事件への関わり方は、いろいろあり得ます。
以下の中からお好きなパターンを選んで、それぞれのすべきことをしてください。
★ 山羊鬼を目撃する(戦う)
一方的に気づくことはそうそうできません。
ほぼ必ず山羊鬼に気づかれますので、狙われます。
素速い身のこなしによる金棒の攻撃をすべて避けるのは、ほぼ不可能だと思います。
なお、山羊鬼は豆が飛んできたら必ず払いのけます。
★ 山羊鬼に囚われる(既に囚われていた)
木の枝に四次元的に沈められ、囚われています。
木から少し出てこれるようですが、はたしてその状況で何ができるのか……。
四次元世界を泳いでみると、どうなるでしょう? がんばれば移動できるかもしれません。
囚われてるのは1人ではないかもしれません。
★ 津止孝道に会う
異世界との出入口を見つけることのできるろっこん持ちです。
出入口の雰囲気から、何か異界から危険なものがやってきたのではないかと心配してます。
というか、もう来てるわけですが。
その津止から直接、あるいは間接的に情報が届いて、危機感を持って神社に来たもれいびもいるようです。
★ 桜栄あずさに会う
約束があったことにしてもいいですし、なかったことにしてもいいです。
偶然会っただけでも、誰でもウェルカムの人です。
この日は気分がいいのか、酔って饒舌です。
寝子高をもっともっと楽しいところにする計画というのを、謎のテンションで語り出したりします
★ ののこに会う
好奇心のままに、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、鬼になったり豆を投げたり。
カッコイイ鬼、かわいい鬼がいれば、思わず感動! 話しかけてしまいます。
もし島外の人だったら、寝子島のねこ自慢を延々と語ることでしょう。
そうそう。かっこいいかどうかは主観ですが、山羊鬼はかっこいいと思います。
★ その他
ご自由に行動してください。
たいていのことはできるんじゃないかと思います。
それでは、ご参加をお待ちしております。
なお、このシナリオは、悲しい結末に終わる可能性も踏まえて構成されています。
どうにか回避してもらえればと思いますが、回避できなくてもらっかみ!終了という程ではない、はずです。きっと。