――どうしてこんなことになったんだろう?
佐藤 英二は身を震わせる。
漆黒の空間。さっきまで地球と月の間に
野々 ののこが浮かんでいた。
ののこはいつものようにあっけらかんと宇宙遊泳を楽しんでいたけれど、月から伸びた黒い尾に一瞬にして絡めとられ飲み込まれた。やられた、と思ったときには遅かった。月にはののこの半身であり黒狼のような風貌をした
絶神(たちがみ)が封じられている。その絶神の尾が、ののこを奪っていったのだ。
◇ ◇ ◇
かつて天に一柱の神がいた。
しかしひとりだった神はふたりに分かれた。
絶神と零神――ののこに。
導かれ、過去へ遡った者たちは知った。寝子暦零年の落神伝説に語られている落神とは、ののこのことであった。悪しき心を持った絶神は月に封じられたが、その封印は千年を超える月日によってほころびが生じていた。そして現代――ふたたび寝子島に落ちたののこと絶神は再び邂逅しようとしている。
絶神はののこを絶望させることで零神/ののこが本来持つ強大な神の力を得ようとしており、そのために悪魔を寝子島に送り込んでののこの『願い(フツウの楽しい高校生活を送ること)』を壊そうとしてきた。
先だっては
月の封印が解けかけ、その尾を寝子島に送り込んで欲望の坩堝へ変えたりもした。幸いにも絶神の尾を月に戻し封じなおすことは出来たけれど、もうこれ以上絶神の所業を許すわけにはいかない。
(だから、僕らは、テオとミラの力を借りて絶神を討とうと月を目指したんだった……)
準備万端。絶神を倒しに。
月へ。
神魂の力はいつものように無差別で、ひとももれいびもほしびとも、ののこすらも巻き込んで渦を起こした。
ぐんぐんと浮かび上がる体。
神の力に守られて成層圏を抜け青い地球と白い月の間へ。
しかし事はそう簡単には進まなかった。
突然、絶神の尾が伸びて来て、ののこを捉えて連れ去ったのだ。
ののこが飲まれた、そう見えた刹那、禍々しい力の波動が月から黒々と放たれた。
衝撃波に目を瞑り、次に目を開けたとき、そこにいた人たちの身に不思議なことが起こっていた。
「え……僕たち……!?」「ふたりになった……!?」
恵御納 夏朝は、自分の中にいたもう一人の自分、夏夜と手をつないでいた。
(えっ、
ひとりがふたりに分かれている!?)
一方テオは灰色の部分が少なく白猫に近くなっていて、テオとミラ、ふたり分の声がする。
「テオ様っ! わた、私っ! テオ様とひとつになってしまいましたっ!」
「落ち着けミラ。オレの中で喚くな。おい、みんな大丈夫か?」
「大丈夫といえば大丈夫よ~ん!」
「俺はとても大丈夫とは言えないんだが。なんだこれは!」
(テオとミラ、フジコ先生と海原先輩は
合体しちゃってるーーー!?)
テオとミラが合体した猫――便宜上『テオミ』と呼ぼう――に返事をしたのはマッチョクール眼鏡というイケメン寄りの青年だったが、声はふたつ。
寝子高演劇教諭の
富士山 権蔵先生と、木天蓼大生で元生徒会長の
海原 茂のものだ。
彼らも便宜上、『海原権蔵』と呼ぶことにしよう。
「ちょっと! フジコよ!」
合体・分離の影響は、もれいびもひともほしびとも、お構いなしということらしい。
その瞬間、強いイメージが脳を打ち抜いた。
ののこが、絶神の狼の肉体に抱かれるように半融合し、黒き巨神の胸のあたりに下半身を飲み込まれた形でぐったりと頭を垂れている――。絶神の高笑い。頭痛がするほどの、ひび割れた響き。
ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ!! 私は半身を手に入れた。
愚かな虫けらどもよ。この私を倒そうなどと千年早い――いや、一億年経っても叶わぬことよ!
夏夜は夏朝を引き寄せ、尾のような黒い光をあちこちから生やし、禍々しい光を放つ月を睨みつける。
「分かれたり、合体したり……この混沌は絶神の力……?」
「ののこちゃんを取り込もうと、神の力を使ったってこと……?」
ののこは落神かもしれないけれど、夏朝にとっては大切な猫好きの友だちだ。
その友だちにひどいことをするなんて、許せない。
「まだだ。ののこはまだ、完全に取り込まれちゃいねえ」
テオが言った。歯噛みして牙がギリギリと音を立てている。
「どうしたらいい? 野々さんを助けるには、どうしたら……!」
英二は必死に考える。
「行くしかないよ、月へ。絶神を倒して、野々さんを助ける!」
英二の決意を聞き、夏夜がはっとしてテオをみた。
「
鈴島の、寝子暦零年に絶神を封じた千年茨の――『時の遺跡』、使えないかな」
「いいところに目をつけやがったな。たしかにあそこの力を使えば絶神の力を削ぐことができるかもしれねえ」
テオがにやりと口の端をあげる。
そのときである。皆の脳内に、星幽塔の精霊、
ステラ・ラ・トルレの声が割って入って来た。
◇ ◇ ◇
「星幽塔も力を貸すよ!」
「星幽塔も分かれたり合体したり大変なことになってるんですわ!」
偶然いっしょにいたらしい、
アイオ・キャンドライトの声もする。
「ステラが、
第十三階層から絶神を倒すためにみんなを助ける力を送ることができるって言ってますわ! でもそのためには人手が必要だとも。もちろん、必ず、何とか致しますとも! ……この声を聞いている方で、星幽塔に駆け付けられる方は力を貸してくださいな!」
◇ ◇ ◇
「絶神はきっと強い。でも……」
「鈴島の遺跡と、星幽塔の力も借りれば、ののこちゃんを助けて、絶神を倒せるかもしれない」
夏朝と夏夜が頷き合う。
テオが仲間たちの頭に語り掛けた。
「
月へ絶神を倒しに向かう者、鈴島の遺跡へ向かう者、星幽塔へ向かう者、三手に分かれるぞ」
「皆さま、行き先を願ってくださいましっ!」
ミラの声がそれに続いた。
「今なら私とテオさまが合体した力で、
皆様を願った場所へ送り届けられますわっ!」
「行こう」
夏朝と夏夜は手を繋ぎ合う。
「待ってて、野々さん。きっと助けるから――」
英二も月を見つめ、強く拳を握りしめた。
こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただきます笈地行(おいち あん)です。
6年ぶりにホワイトシナリオを担当させていただくことになりました。
第2シーズンのラストを飾る絶神との決戦。
この世界は、ののこは、あなたは、どうなってしまうのか。
どうぞみなさま奮ってご参加くださいませ。
このガイドには過去のシナリオへのリンクもありますが、読んでいなくても大丈夫です!
これまでのカンタンまとめ
寝子暦元年に寝子島に落ちてきた「元祖らっかみ」はののこだったらしい!
その時、ののこだけでなく「絶神(たちがみ)」と呼ばれる者も落ちてきていました。
絶神とは、ののこの影から生まれたオオカミの姿をした半身で、
第1シーズンで倒したクローネのボスでもありました。
絶神自身は、昔の寝子島の人々の手で月に封印されて出られないはずだったのですが、
長い年月の間にほんの僅かな綻びが生じていたようで
ののこの力を得ようと悪魔を寝子島に送り込んだりしていました。
そしてある日、その邪悪で強大な力を発揮し、ついには寝子島にも襲来しました。(前作)
寝子島は一時、欲望の寝子島となってしまいましたが、みんなの活躍でフツウはなんとか死守。
しかしいつまでも受け身ではいられないと、絶神のいる月を目指す途中で――
絶神の妨害を受け、合体したり分離したりしてしまい……!?
PCのみなさんの状況
誰かと 合体 もしくは 自分が 分離 した状態です。
テオミの呼びかけに応じ(または、よく分からないままいつの間にか)
月 / 鈴島 / 星幽塔 のいずれかに送り届けられました。
ひと の方は、この状況を理解していることもあれば、夢か何かだと思っていることもあります。
ほしびと の方は、星幽塔にいたままということもあれば、月や鈴島にいることもあります。
※アクションでは、ご自身のキャラの状況を【合体】【分離】と書いてお知らせください。
基本的に「合体も分離もしていない」ということはありません。
アクションに明記ない場合は「マスターにおまかせ」と判断して描写させていただきます。
【合体】誰かと合体する!
PC【A】とPC【B】の2人が、1人のPC【AB】に合体します。
容姿はAとBどちらかの姿そのままのこともあれば、AとBがミックスしてることもあります。
アクションに、合体キャラの容姿と、便宜上の呼び名 を書いてください。
(PC同士の合体の場合、どちらか1人が書くだけでもOKです)
思考はAとBは別々です。合体した相手と頭の中でお喋りする感じになります。
会話も別々です。ガイド本文のテオミ、海原権蔵を参考ください。
協力したり、口喧嘩したり、好きな人と合体しちゃってドキドキしたり・・・
お好きなロールプレイをお楽しみください。
ろっこんは、AとBどちらのものも使えます。
思わぬ合わせ技も出来るかも!?
【追記】
星の力も、AとBどちらのものも使えます。
(サンプルアクション3のように、あえて1つに統一することもできます)
もれいび同士、ひとともれいび、ほしびとともれいび、などすべての組み合わせがあり得ます。
★PC同士で合体
アクション冒頭に「GA【〇〇】」と書き、グループアクションをかけてください。
合体した体はひとつなので、
行く場所は 月 / 鈴島 / 星幽塔 のうち、2人で1つに合わせてください。
★Xキャラと合体
「PC」と「Xキャラ(自分で注文したXイラストのキャラ)」が合体できます!(コモン、パーソナルとも)
Xキャラの口調、一人称、PCさんとの関係性などのキャラクター設定をアクションに書いてください。
Xキャラ図鑑に書かれている内容は、アクションにURLがあれば参照させていただきます。
★NPCと合体
希望する方は、リストにあるNPCと合体できます。(リストに名前がないNPCとは合体できません)
アクションに 【合体:(希望するNPC名)】 と書いてください。
<合体可能NPCリスト>
相原 まゆ 青木 慎之介 浅井 幸太 五十嵐 尚輝 泉 竜次 ウォルター・ブラックウッド 北風 貴子
桐島 義弘 串田 美弥子 久保田 美和 剣崎 エレナ 申 雨晨 島岡 雪乃 鷹取 洋二 津止 孝道
永田 孝文 南波 太陽 二宮 風太 野菜原 ユウ 早川 珪 坂内 梨香 樋口 弥生 フォルカ・ヴィクスン
三宅 ゆり 桃井 かんな 吉田 熊吉 ルーク・ポーラスター 鷲尾 礼美
※合体したNPCが「ひと」の場合、相手は夢を見ている等『現実ではない』と思ってることが多いです。
※同じNPCと複数の方が合体希望した場合は、
「PC」と「分離済みのNPC1体」が合体するという形になります。
(PC同士・リストにないNPCは、分離してから別のPCと合体することはできません)
★NPC同士での合体(と行き先)
テオとミラ …………………【月】テオミ。灰色の部分が少ない。この世界の維持でいっぱいいっぱい。
海原 茂と富士山 権蔵 ……【鈴島・遺跡の外】海原権蔵。マッチョクール眼鏡。投げキッスで強力な雷撃!
【分離】1人が2人に分かれる!
1人のPC【AB】が、PC【A】とPC【B】の2人に分離します。(3人以上には分離しません)
分離したAとBの容姿や性格は、同じこともあれば違うこともあります。
基本的には対等の立場の2人ですが、
性格の違いなどによって主従関係、恋愛関係、敵対関係などが生じていることもあります。
もし、元の自分の口調や性格などとの違いがあれば、アクションに書いてください。
ろっこんは、分離したどちらも、同じように使えます。
思わぬ協力技も出来るかも!?
【追記】
星の力も、分離したどちらも「同じ力」を同じように使えます。
分離はしましたが、もとが一人だからか遠く離れての活動はできません。
行く場所はふたり揃って 月 / 鈴島 / 星幽塔 のうち、1つです。
★分離しているNPC(と行き先)
四十九院 鸞 ………………【星幽塔・第十三階層】優しい鸞とクールな鸞の二人に分離しています。
七夜 あおい ………………【鈴島・遺跡内部】ほぼ同一の二人に分離。ろっこんでPCたちと協力しあいます。
ステラ・ラ・トルレ …… 【星幽塔・第十三階層】ほぼ同一の二人に分離し、二人同時に喋ります。
行き先とアクションについて
行き先の番号と行動選択肢を、【1-A】のように、アクション冒頭に入れてください。
難しいことは考えたくない、何も知らずに遊んでたいな~という方は、
【1ーD】で自由にお気楽に遊びましょう。
【 行き先 1 】 月
【 行き先 2 】 鈴島
【 行き先 3 】 星幽塔
それでは、合体や分離を楽しみ、時に苦しみ、フツウを死守してください。
ご参加お待ちしております!