【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略｜リアクション

【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略

　１８

　紅の衣装に身を包んだアイドル達が、今年のヒット曲に合わせてダンスを踊っている。それを視界に入れながら、佐藤英二は手元にあるトランプを前に早くも負けを悟っていた。
（良い札が揃ってないなぁ。今回のゲームは苦戦かも？）
　今は、桜花寮で野々ののこと友人二人を加えた計四人で大富豪をやっていた。彼が現在持っている手札はパッとしないものだった。
「あ、英二くん、もしかしていまいち？」
「えっ……！」
　ののこの言葉に、英二は驚いた。何で分かったのだろう。さっきは富豪だったから、本来は良いカードが揃う筈なのだが。
「そんなことないよ。野々さんこそ、大貧民だから弱いカードが……って、すごいニコニコしてるね？」
「そうかなー、まあ、始めようよ！」
　ののこが言うと、まず友人がカードを出した。
「じゃあ、俺はこれ」
　場に出たのはJが二枚。英二はむむ、と内心で唸った。Kが二枚あるから出せないことはないが、序盤の今、このカードを失うと非常に辛い。
「パスで」
　やむを得ずパスを宣言する。
（野々さんは……）
　パス、とののこは言った。けれどやっぱりニコニコしている。何か秘策でもあるのだろうか。
「あたしはこれで」
　もう一人の友人が２を二枚出す。場は流れ、彼女は続けて低い数字を二枚出した。そこからは弱いカードの消化タイムになるかと思ったが、ののこの手で場は一変した。
（あ、８切りだ！）
　８を二枚出して場を流したののこは、「えへへー」とニマっと笑った。
　そして、５を四枚出す。
「「あ！」」
　まさかの革命に友人達が声を上げた。同じカードを四枚出されるとカードの強弱が逆になるのだ。
「野々さん、これを狙ってたんだね」
　英二は改めて自分の手札を見てみた。革命されても苦戦することに変わりのないカードだ。
「さ、これで逆転するよー！」
　それから、ののこは快進撃を続けて最後に３を二枚出して一番に上がった。
「わーい、やったー！」
　両手を上げてののこは喜ぶ。それから、用意していたお菓子の中から好きなものを３個選ぶ。お菓子をゲットできる権利を賭けた勝負を２回経て、残りのお菓子もあと少しだ。
（この分だと全部取られちゃうかも……）
　紅白は白組の順番で、大物歌手が紹介されている。
「あっ、この人も紅白に出演してたんだね」
「うん、テレビには出ないって噂だったけど、諦めないで交渉してたらOKしてくれたんだって。私も好きなんだー！」
　ののこは目を輝かせてテレビに釘付けになった。英二も友人達もつい見入ってしまう。
　いつの間にかトランプを忘れて紅白を見ていると、寮母の座間トシコさんが声を掛けてきた。
「年越し蕎麦ができたわよ。どう？」
「ありがとうございます。いただきます！」
　英二は笑顔で立ち上がって、寮母さんから蕎麦の丼を受け取る。朱色の丼に、わかめやかまぼこ、ねぎに卵が入った熱々の蕎麦だ。順に皆に配っていく。
「はい、野々さん」
「ありがとー！」
　皆でそばを啜っていると、紅白では投票が始まっていた。観客が上げたパネルを、野鳥を愛でる人々がカウントしている。
「ののこちゃんはどっちが勝つと思う？」
「うーん、白組かなー。トリの迫力がすごかったよ！」
　４人でワイワイと話している内に結果が出た。今年は紅組の勝ちらしい。発表の後は、全員で蛍の光の合唱だ。
「何だか色々あったけど、今年も終わりだね」
　今年一年に悔いはない。さっぱりとした気分で言うと、ののこは、うん！　と頷いた。
「楽しい一年だったねー！」
「来年も同じくらい楽しい年になったら良いね」
　笑って言うと、皆もそうだね、と同意する。蕎麦を食べ終わって落ち着いていると、やがて０時を過ぎた。
「あっ年が明けたね。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「よろしくー！」
「よろしくお願いします」
「よろしくな！」
　トランプを片付けると、英二は仮眠を取ることにした。
「さて、僕はひと眠りして、起きたら神社に初詣に行こうと思うよ。みんなはどうするの？」
「あたしはこれから初詣に行くよ！」
「俺も行こうかな」
「あ、私も！」
　ののこも手を上げ、外に出る支度を始めた皆と別れ、英二は自室に戻って布団に入った。