【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略｜リアクション

【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略

　２０

「あれ、ばーちゃん、もう寝るの？」
「年寄りに夜更かしはよくないから」
　大晦日の夜、滝原カノンがこたつで紅白歌合戦を見ていると、祖母は寝室に引き上げていった。みかんを食べながら、兄の滝原レオンが声を掛けてくる。
「お前も寝たらどうだ」
「やだよ！　起きてる！」
　カノンもみかんを取って皮を剥く。この紅白を見終われば、年越しまでもう少しだ。
（…………）
　からっぽになってきた頭で時計を見ると、針は１１時３０分を指していた。
（眠い……）
　いつもは寝ている時間だけれども、今日は大晦日だ。少なくともあと３０分は寝るわけにはいかない。
（今年こそ、ちゃんと起きて年越しするんだ！　ばーちゃんは寝ちゃったけど、おれは寝ないぞ！）
　去年は寝てしまったが、今年こそは起きて年越しするのだ。
（そんでにーちゃんに『あけましておめでとう』って言うんだ！　…………）
　テレビの声が、段々と遠くなっていく。
「はー……今はこんな曲が流行ってんのか……」
　その頃、レオンはみかんを口に運びつつそんな感想を漏らしていた。
「やっぱり家でのんびりしてるほうが性に合ってるな、俺は」
　流行にとても疎い彼は、こんな時でもないと流行りの歌を聞くこともない為、ゆっくりと紅白を楽しんでいた。
（この曲良いな。後でちょっと調べてみよう）
　そう思いつつカノンの方に目を向けると、弟は明らかに眠そうな顔でこくりこくりと舟を漕いでいた。
「カノン、眠いならちゃんと布団行って寝ろよ。こたつで寝ると風邪ひくぞ」
　兄の声を聞いて、カノンの意識はぱっと覚醒した。慌てて顔を上げ、目を擦ってなんとか眠気を飛ばそうとする。だが、すぐにうとうとし始めた。
「やだ、起きてる」
　今にも寝落ちしそうだが、彼の心意気を買ってレオンは微笑んだ。
「……そうか、あんまり無理はするなよ？」
「うん……」
　兄がテレビに目を向けるのを見て、カノンもテレビに集中しようとする。でも、流れていたのは彼にはよく分からない歌で、逆に眠くなる。
（……ねむい、もう、だ、め……）
　それからしばらくして、すうすうと寝息が聞こえてきてレオンは再びカノンを見た。
「……今年もダメだったか」
　苦笑しながらこたつから出て、毛布を持ってきて突っ伏して寝ている弟に掛けてやる。
　ちょうどその時、テレビから歓声が響いた。
『ハッピーニューイヤー！』
　盛り上がるタレント達を横目に、そっとカノンの頭を撫でる。
「……あけましておめでとう、今年もよろしくな」

　――目が覚めて、カノンはぱっと顔を上げる。
　隣を見ると、レオンはこたつに突っ伏して眠っていた。寝ている時は、二人で同じ格好をしていたらしい。
『もうすぐ初日の出です』
　かけっぱなしになっていたテレビから、アナウンサーの明るい声が聞こえてくる。いつの間にか、朝になってしまったようだ。
（今年も寝ちゃったな……）
　思ったよりもがっかりはしなかった。そっと障子を開けると、外はうっすらと明るくなっている。
「そっか、初日の出か……」
　起きて年越しはできなかったけれど、初日の出は見られそうだ。
（そうだ！）
　ちょっとわくわくしながら、レオンを振り返る。
「にーちゃん、あけましておめでとう。今年もよろしくね」